研究課題/領域番号 |
19K00811
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研究機関 | 愛知工科大学 |
研究代表者 |
江口 朗子 愛知工科大学, 工学部, 教授(移行) (30758602)
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研究分担者 |
村尾 玲美 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (80454122)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 小学校英語 / 文構造の知識 / 模倣発話タスク / 文法性判断課題 / ワーキングメモリ / 定型表現 / 語彙サイズ / 統語発達 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,小学生の英語の文構造に関する知識について,模倣発話タスクを使って長期的に調査し,処理可能性理論という第二言語習得理論の統語発達の枠組みで,定型表現の知識との関連性に着目しながら,その発達過程を明らかにすることである。模倣発話タスクとは英文を聞いて,それを手本に模倣再生するタスクで,課題文の長さや構造などを調整することにより,言語産出能力が未熟な学習者が無意識的に持っているかもしれない文法知識や定型表現の知識を測定することが可能である。本研究では,学習指導要領で扱われる肯定文3構造(SV, SVC, SVO)に加えて,小学生が外国語活動・外国語の授業で早い段階から一定量のインプットやアウトプットの機会がある疑問文や否定文の構造も対象にし,模倣発話タスクの結果に影響を与える可能性のある語彙サイズと音韻的短期記憶を測定することにより,模倣発話が学習者の言語知識を反映しているかどうかの検証も行う。また,文法知識を測定するために従来から使用されてきた文法性判断課題とメタ言語知識課題も並行し実施し,小学生の英語の統語知識の発達を包括的に調査する。 日本の英語教育では,小中高を通じ一貫した到達目標を設定して英語コミュニ ケーション能力を向上させることが急務とされているが,英語での情報のやり取りに不可欠な言語知識に関する小学生の縦断データに基づいた研究は絶対的に不足している。とりわけ文構造の知識については学習指導要領の目標にも掲げられているが,その知識をどのように測定するかという明確な提案はされていない。本研究で小学生の統語の知識の発達を模倣発話タスクにより明らかにできれば,英語学習入門期の文法知識を測定する有効な方法として提案することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,研究協力校の公立小学校において,2019年度の4年生と5年生の計約170名の調査協力を受けて,それぞれが5年生と6年生に進級する2020年度までの2年間で計4回,(a)模倣発話タスク,(b)文法性判断課題,(c)メタ言語知識課題,(d)語彙サイズテスト,(e)音韻的短期記憶の測定,(f)学習経験などに関するアンケートを実施する予定であったが,2020年3月~5月に新型コロナウィルス感染症拡大防止のための休校措置が取られたため、小学校でのスケジュール上の負担に配慮して,2年間で計3回の実施に変更した。 2019年度は,予備実験と第1回本実験を行った。予備実験では,2019年度の6年生を対象に,前年度の3月(5年生時),模倣発話タスクと文法性判断課題における課題文の難易度と採点方法,実施環境を確認した。また,模倣発話タスクと文法性判断課題の結果に影響を与える要因分析に関する研究成果を論文にまとめて,JES Journal(小学校英語教育学会学会誌)に投稿し採択された。主な結果は次の通りである。(1)両タスクの結果は、ともに学習者の語彙サイズの影響があるが,実験文における処理可能性理論が予測する統語ステージの影響はなかった。(2)実験文の音節数は模倣発話タスクにのみ影響があった。(3)文法性判断課題は文の形態や統語ステージに関わらず文法性よりも非文法性の判断の方が難しかった。以上,予備実験の結果を踏まえて,課題文の修正とパソコンで課題の提示とデータ回収ができる実験プログラムを準備し,2019年9月に,公立小学校にて4年生と5年生の計約170名を対象に,上記の(a)~(f)の本実験を実施した。これまでに採点や模倣発話の書き起こしなどのデータ処理の大部分を終えており、現在はデータ分析中である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,研究協力校の公立小学校で,5年生・6年生に進級した計約170名に,2019年度に実施した(a)~(f)と同じ課題のセットを,本実験の第2回と第3回として実施する。収集したデータは,順次,採点や書き起こしなどのデータ処理を進め,2019年度に実施した第1回本実験のデータとあわせて分析する。学習指導要領で言及される文構造は,第二言語習得研究の領域では,統語として扱われている。予備実験の結果より,模倣発話タスクの遂行中は,小学生は,統語規則ではなく語の線形順序や語彙的な知識を使っている可能性が示唆されているため,模倣発話における構造の定型的使用の特定方法や定型表現の知識の測定方法を検討しながら,文法性判断課題やメタ言語知識課題の分析結果も含めて,小学生の英語統語知識の発達を多面的に観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究協力校である公立小学校において,模倣発話タスクや音韻的短期記憶を測定するデジットスパンなど、児童が音声を聞いた後の発話を録音する必要があるテストは,「聞く」「話す」「録音する」の一連の作業を児童が各自ででできるように、語学学習機を1クラスの児童数分の台数を購入する予定で予算計画を立てたが,小学校のコンピュータ室で児童が使用する各パソコンに実験プログラムを配布して,音声課題の提示から発話を録音し,そのデータを回収するまでの過程をすべてパソコンで実施できることになったため,物品費に余剰が生じた。また、2019年3月に、2回目の実験(テスト)を実施する予定であったが,新型コロナウイルス感染症拡大防止のため休校になり実施できなくなり,データ処理のための人件費に余剰が生じた。 2020年度は,国内外の多くの学会が中止や延期を決めているため,学会発表や参加の機会は少なくなることが予想されるが,小学校で授業が再開されれば,2020年度中に実験(テスト)を2回実施する予定である。予算は主に、その実施とデータ処理に必要な人件費と文献研究を充実させるための図書や論文の購入に使用する予定である。
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