研究課題/領域番号 |
19K00815
|
研究機関 | 筑波技術大学 |
研究代表者 |
太田 智加子 筑波技術大学, 障害者高等教育研究支援センター, 講師 (00282020)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 情報補償型e-learning教材 / 視覚障害を持つ大学生 / 英語力涵養 / フィードバック / 自己調整能力 / 自己効力感 / 教育療法的効果 / 公正で包摂的な社会 |
研究実績の概要 |
視覚障害者に必要とされる情報補償を、申請者は、「不十分かつ技術的な」情報補償と呼ぶ。特に英語学習においては、母語と異なり文脈による推測が難しく、読み/書き間違いが起きるため、特別な工夫が必要となる。視覚障害学生のための、基礎英語力の涵養、就職活動のための対策が必要である。このような問題意識のもと、申請者はこれまで、視覚障害に対応可能なe-learning教材を独自に開発してきた。特長は、「技術的な」情報補償のみならず、「教材構成」自体に情報補償機能を設けたことである。文字サイズ・レイアウト・背景色の変更、音声・点字同時出力ができ、学内外からも(PC・スマートフォン等)容易にアクセスでき、国内外で前例のない試みである。
本教材で学習した学生に、自己の英語力の現状分析・使用感・要改善点・学習意欲/能動性の向上性の有無・英語力向上の実感、の観点からフィードバックをもらった。入学時学力との成績変化分析も加味したところ、重度視覚障害学生ほど能動性が上がり、低学力層の成績向上もみられ、PC技術に慣れている学生からは具体的な建設的意見が多いという分析結果が得られた。この結果にもとづき、2019年度科研費で要改善点を改訂したところ、更に質の良いフィードバックが得られた。
学生達は、学習を通して自己調整能力を身につけたと見受けられた。学習媒体の不在で意欲を失いがちであった学生達が、自己効力感を得たことが要因と見受けられる。この能力は、障害学生・健常学生問わず必要である。 また、申請者は、本教材にみられた効果の1つを「教育療法的効果」と定義づけ、技術面・精神面、の2点からカテゴリー化した。障害の態様・程度に関わらず「この教材は、重度視覚障害者と晴眼者が同じ教材を共有できる可能性を拓いた」とのコメントもあり、包摂的で公正な教育機会の実現という、本研究の大きな目標に微力ながら寄与したといえる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、2019年度は、予算・時間的制約の関係上、前回(2014~2017年度)獲得した科研費で開発した本教材の、最低限の改訂が目標であった。
だが、学生からの多種多様のフィードバック、課題を課していない学生達からのフィードバックも多数集まったことにより、自己調整能力・自己効力感・教育療法的効果といった側面まで、文献に裏づけられた分析を進めることができた。
この理由で、当初計画していた予算を大幅に前倒しして、研究を大幅に進めることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
学習者に焦点を当てた教育学的見地から、更に多くの文献的裏づけを進める。
同時に、更に多くの学習者によるフィードバックを収集し、教材の質を更に高める。 本教材により、次の効果が確認できた;学習可能な媒体そのものの不在に悩む学習者、中途失明等により点字の修得に苦慮する学習者、pdf教材であること等により各自の視覚障害に応じたカスタマイズができず学習に困難を抱えてきた学習者、学習したい項目へすぐジャンプできるため視線移動が減り疲労が軽減されたという学習者、自分の障害に対応した学習可能な媒体不在に対する不安感や悩みが軽減されたという学習者、膨大な点字教材を大量に持ち歩かねばならない負荷から解放されたという学習者、学内外からスマートフォン等でいつでも学習可能であるため安心感を得たという学習者、これらにより学習への能動性 / 自立性 /自律性が上がったという学習者、が増えてきたことである。
今後も引き続き、視覚障害ゆえに英語学習に困難を抱える全国の視覚障害者の英語学習に寄与していきたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
学生からの新たなフィードバックにもとづき、更なるコンテンツ改良が必要になる可能性があるため。 成果を国際学会・国内学会で発表する予定があるため。
|