研究課題/領域番号 |
19K00835
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
西川 惠 東海大学, 国際教育センター, 准教授 (10453705)
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研究分担者 |
山内 豊 創価大学, 教育学部, 教授 (30306245)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ESP / CALL / 航空英語 / 教材開発 / フライトシミュレータ |
研究実績の概要 |
2020年度は、限られた環境下でできる限りのデータ収集を試みた。申請時の計画ではPCを利用した教材を完成させ、2021年度には効果を検証する予定であったが、まだ教材は完成していない。が、これは必ずしもデータ収集や分析がCOVID-19の世界的感染拡大により中断したからというマイナス要因によるものだけではない。それよりも、VR(Virtual Reality)機器やスマートフォンやタブレットなどのモバイル機器が遠隔学習の普及により日常生活に浸透したことから、PC、紙やCD以外の手段として様々な可能性が広がりまだ検討を続ける必要が出てきたからというプラス要因の方が大きい。以下、2020年度の実績概要を(A)~(D)にまとめた。 (A)これまでに収集した訓練場面の録画資料の中で2020年度は「教官との機内でのやり取り」の文字起こし・分析に取り組んだ。雇用した学生と年度後半から遠隔で作業を開始した。分析結果については2021年度学術学会等で発表予定である。 (B)訓練生用の既存テキストから遭遇場面・状況を分析し、場面ごとに語彙や文法項目を学習できるタスクの考案にとりかかった。分析結果は論文としてまとめ発表した。 (C)研究計画にはなかったが、フライトシミュレータを使った実験を急遽年度後半に実施できることになった。航空管制官との飛行中のやり取り(英語)において、訓練生は作業負荷が高くなるとどのような言い間違いがおこりやすくなるのかについて調査した結果、エラーには特徴があることが分かった。結果は今後の教材に反映させていく。 (D)教材をどのようなメディアで提供するのかについて、飛行教官との話し合いの中でフライトシミュレータソフトを使い、PCに加えてHead Mount Display(HMD)を使ってのVR環境下で遭遇場面を再現し描写等の練習をする形態について検討を始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、限られた環境下を考えると大きく研究計画を進められたと考えるが、VR機器やモバイル機器の可能性が大きくなったことにより教材の形態について紙やPCを超えてさらなる検討の必要が出てきた。また、訓練所でのデータ収集についても訓練が中断されたため、また渡米もできなかっため結果的には進んでいない。この様な観点から見ると、「やや遅れている」と言わざるを得ない。ただ、2021年4月より訓練は再開し、2021年度の感染状況次第では年度内に渡米しデータ収集を再開できる可能性もある。以下、概要で報告した(A)~(D)について、より詳しく進捗状況を記す。 (A)2020年度は「教官との機内でのやり取り」の文字起こし・分析に取り組んだ。雇用学生が入構できず文字起こしの開始が予定より遅れたが、遠隔で作業を開始し年度内に文字起こしは終了した。現在分析を開始したところで、飛行訓練中に教官が使用する語彙や文法項目の特徴等を整理している。 (B)訓練生が遭遇する場面・状況をある程度整理した。追加の必要がある状況について精査しているところである。 (C)フライトシミュレータを使った実験により、飛行中に航空管制官と行うやり取りの場面において、エラーには特徴があることが分かった。大きなものとして高度等の数字の誤りとコールサインの付け忘れが最も多いことがわかった。よって、場面・状況ごとに必要な英語力に加えて、数字を記憶して復唱する記憶強化タスクのような教材も必要であることがわかった。 (D)フライトシミュレータソフトを使ってPC/HMDでの場面再現、VRを利用した教材作成を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の感染状況次第では年度内に渡米しデータ収集を再開できる可能性もある。以下、進捗状況で報告した(A)~(D)について今後の推進方策を記す。 (A)飛行中、飛行後のやり取りについて、状況が許せば渡米してさらなるデータを収集したい。自身の渡米が難しい場合は、現地の飛行訓練教官に撮影を依頼し、データを送信してもらう。データについては文字起こしと分析を継続する。 (B)訓練生が遭遇する場面・状況をある程度整理し、追加の必要がある状況について、飛行教官と学生にアンケートおよびインタビューを実施し、学習タスクで使用する候補場面を決定する。アンケートはオンラインで、インタビューはテレビ会議システムを用いて実施し、具体的学習タスクを系統的にまとめ決定する。 (C)場面・状況ごとに必要な英語力に加えて、数字を記憶して復唱する記憶強化タスクも併せて考案する。教材使用前・後で記憶と復唱力がとう変化するか等の調査を行い効果を検証することも検討中である。 (D)(B)で決定した場面をPC/HMDで再現、数字記憶強化タスクも組み込み、モバイル機器と連携した学修システムを開発する。現在、飛行シミュレーションソフト「X-Plane」を使用してPC/HMDで場面を再現する方法を検討している。「X-Plane」を使用して特定の訓練所をPC/HMD上に再現できるか、訓練所で使用する訓練機のシミュレーションをPC/HMDで再現できるかを実験する。成功すればHMDを使った簡易的フライトシミュレータを開発でき、訓練生は時間や空間に縛られず自律的に学習に取り組むことができ、特定の場面を反復練習する、実際の使用場面に限りなく近い状況で産出練習する、などのアクティビティが可能になる。教材の効果検証も行う。教材の使用前・後での産出力の変化測定、使用感もアンケート調査等で確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、北米の訓練所にてデータ収集、国際学会での発表等がCOVID-19感染拡大のためキャンセルとなり、計画していた渡航費の使用が2020年度は無くなったため。また、予定していたデータ起こしのための学生雇用も外出自粛などで難しく、人件費の使用も計画通りには進まなかったため。教材用の機器(PC、モニター、HMD、フライトシミュレーションソフト等)を年度前半に購入することも考えられたが、機器の品薄状態が続く、配送状況が安定しない、機器のバージョンアップが急速に進んだため古いものは生産中止・新バージョンは販売(予約)待ちといった状況が続き購入のタイミングが決められない、といった中で必要機器を購入して研究を計画通り進めることが難しかった。 今後の使用計画については、①簡易的フライトシミュレータ教材に必要な機材(VR用HMD、PCモニター、操縦桿やラダー等コックピットモックアップ機材)の追加購入費、②感染状況をみながらではあるが、渡米してデータ収集や教材の効果検証を行うための渡航費、③教材効果検証のための実験参加者へ支払う人件費、④データ処理のための学生アルバイト雇用費に使用する計画である。
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