2023年度は、研究成果について学会発表をおこなったり、論文にまとめることに注力した。具体的には、IPrA(国際語用論学会)とJACET(大学英語教育学会)で研究成果を発表した。論文は近々語用論関係の国際ジャーナルに投稿する。 本研究の目的は、Pragmatic Routines(PR)の習得において気づきの言語化が効果をもたらすかどうかを検証することにあった。まずパイロットスタディとして、12人の大学生を対象に気づきの言語化タスクをおこなってもらった。具体的には、参加者に口頭談話完成テストを英語おこなってもらい、次に、自分の回答と英語母語話者の典型的回答とのギャップについて気づいたことを書いてもらった。この直後に再び口語談話完成テストをおこなったところ、全回答のうち30%で目標としたPRが新たに産出されたが、50%では産出されなかった。この結果は1カ月後の遅延テストでもあまり変化がなかった。また、本実験から、学習者は言語化した気づきを必ずしも産出に結びつけないことがわかった。 続く本研究では、実験群と統制群の2群を設け、33人の大学生に1時間×3回の語用論的授業を受けてもらった。授業では、気づきタスク(実験群のみ筆記による言語化)、メタ語用論的解説、産出練習をおこない、事前、事後、遅延事後の3回、口頭談話完成テストを受けてもらった。目標としたPRの産出について、事前、事後、遅延事後のいずれのテストにおいても両群に有意差はなかった。両群を合計すると、目標とした19のPRのうち、事後テストでは16で有意に産出頻度が増え、遅延事後テストでもほぼ維持された。 以上の結果から、気づきのタスクはPR習得にある程度の効果はあるが、言語化するかどうかはあまり関係ないこと、気づきタスクだけでなく、より包括的に明示的な語用論指導をおこなうことで、PRの習得に大きな効果があることがわかった。
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