研究実績の概要 |
本研究では、日本語とフランス語のバイリンガル話者の異文化間語用論能力を調査するため、長年フランスで生活し、職場および家庭を含む多様な場面で両言語を日常的に使う日本人に半構造化インタビューを実施してデータ収集を進めてきた。しかし、今年度はコロナ感染拡大のため海外渡航不可の状況が続き、フランスでの調査を続行することができなかった。 上記の理由から、今年度は昨年度に実施したインタビューの分析を中心に行ったが、特にターン・テイキングの問題を取り上げて考察した。外国語学習者にとって円滑なターン・テイキングは難しく、様々な問題を含んでいる(Sacks, Schegloff and Jefferson, 1974; Murata, 1994; Beal, 2010; Kecskes, 2015)。日本人フランス語学習者に関しても同様であり、ターン・テイキングの様々なストラテジーのうち、特に困難なものについてその要因を分析し、日仏バイリンガル話者のデータと比較した。フランス語学習者の大学生にフランス人の会話コーパスを視聴してもらい、ターンテイキングについての意見をアンケート形式で集めた。その結果、相手のターンが終わらないうちに発話する場面について否定的な反応が多く、強い抵抗感がみられた。しかし、Beal (2010)によると、フランス人にとって発話の重なりや遮りは相手の発話への高い関心を示すものであり、参与者同士で会話を共に作り上げていくための要素である。この点について、在仏歴の長い日本人バイリンガル話者もインタビューで日本人大学生と同様の意見を述べている。インタビュー回答者の社会的語用論能力は大学生よりも優れているのにも関わらず、ターン・テイキングについては似たような意見があるのは大変興味深く、今後の分析にethos communicationnelの観点を含めていく必要性を感じた。
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