研究課題/領域番号 |
19K00858
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研究機関 | 拓殖大学 |
研究代表者 |
居村 啓子 拓殖大学, 外国語学部, 准教授 (90649211)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 小学校英語教育 / 児童の発話の自由度 / 定型表現 / 内容言語統合型学習 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本の小学校の外国語活動に於いて、児童が自由度のある発話をどの程度行うのか、教師の発話や授業の内容が与えるインパクトとは何かを検証することを目的としている。当該年度は、小学校の外国語活動8時間分の録画データを書き起こし、児童と教師の発話、授業内容を分類した。児童の発話は、自発的なもの、定型表現が分解され、さらに自由度が高いものに着目し、それを促す要因を探る。対象となる第5学年の児童30名の発話を1.自発的なものか、促されものか、2.定型表現か、定型表現からの分解が起こっているか、という2つの観点より分析した。まず児童が自ら行う発話は、対象となる全8回分の授業の内、1回目の授業では24.2%、8回目の授業では54.2%と上昇していた。さらに授業内容を、「ルーティン」「説明」「ドリル」「練習」「タスク」に分け、児童の自発的発話との関連を見た結果、「説明」と「タスク」に於いて、自発的な発話が多く見られた。次に、児童の発話の自由度を見るため、発話タイプを「1語」、「定型表現」、「定型表現よりの分解」、「より自由度のある表現」に分類した。自由度のある発話の割合は、授業の回数ではなく、授業内容との関連が見られた。定型表現を分解する児童の発話は、主にタスクを行っている際に最も多く出現した。定型表現の分解は、児童がある表現のパタンを認識し、一部を入れ替えて使おうとするものだが、そのような発話は、言語を主として扱う通常の授業ではなく、内容を主として扱う授業でのみ、多くみられることが判明した。これまでの分析結果から、児童の自発的な発話率は、授業回数、つまり言語インプット量に従い上昇すること、また授業の内容によって出現頻度に違いがあることが判明した。また児童の自由度のある発話は、言語を学ぶ活動ではなく、言語を使って内容を学ぶ活動を通して、定型表現の分解という形で起こることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は小学校外国語活動の授業録画の書き起こしが主な実施内容である。当該年度はデータを提供していただいた市立小学校第五学年の授業8回分の書き起こしと、コーディングを行い、データの概要を掴むことができた。COLT(Communicative Orientation of Language Teaching Observation Scheme)を日本の小学生の英語教育の実態に沿って改訂するにあたっては、実際のデータを見ながら、該当しない項目を削除し、必要な項目を加える作業を繰り返し行い、全体の傾向を見ながら、最終的なコーディングの基準を設けた。児童の発話は、チャンクの分解に着目しながら分類を行い、自由度のある発話の基準の確立に向けて歩を進めた。教室内発話を探索的に分析した結果、子どもたちのより自由度のある発話は、教師の発話との関連よりも、授業内容との関連がある可能性が示唆された。伴い、本研究は授業内容を、ルーティンやトピックの紹介、言語にフォーカスしたドリルや練習の、内容にフォーカスしたタスクやアクティビティに分類し、児童の発話や、教師の発話との関連を見た。一連の分析は、書き起こしとコーディングのみではなく、データの概要をつかみながら、もう一つの分析基準を設けたという意味において、当初予定していた以上に進捗させることができたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの探求的研究を通して、日本の小学校における外国語の授業のある程度の傾向が掴めたものの、分析基準にまだ曖昧さが残る。次年度は、既に構築した分類基準の見直しを行う予定。1.授業内発話のコーディングの基準、2.授業内容の分類基準、3.児童の発話の分類基準を相互的に検証しながら、スキームの構築を目指す。特に児童の発話分析に於いては、自由度のあるやり取りの定義を明確にし、定型表現からの分解の基準も見直す必要がある。また、当該年度は、8回分の授業の録画の書き起こしと分析に留まっているため、同小学校第6学年の1年分のデータの書き起こしを平行して実施する予定である。 今後の課題1:本研究の課題は、被験者の個別の発話データの収集である。既にあるデータは、クラス全体の録画データであるために、児童の個別の音声データの認識が困難である。今後、児童が一斉にやりとりを行う際の、個別の音声データを拾う方略が必要となる。個別の音声データは児童一人一人にマイクをつけることになるが、その際担当教員、学校、保護者への同意を得る必要が生じるので、実施可能に向けての打診を行う。 今度の課題2:現在取得済みのデータ分析結果を通して、児童の発話の自由度には一定の傾向が見られたものの、一般化するだけのデータ量に至らない。今後、他校のデータ取得を視野に入れながら、児童の発話を引き出す要因を探って行きたい。その上で、「問い」となる、「より自由度のあるやり取り」の要因となるファクターを検証していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
データを処理するためのノートパソコンは次年度購入する。その他印刷費、ファイル、筆記用具等の文具、文献に使用する書籍代を計上する。国内学会・国際学会に於ける発表も引き続き行い旅費を計上する予研究協力者謝金は主に資料整理、研究資料収集、データ分析、専門的知識の提供等の経費を支払う。校閲は英文の校正を専門機関に依頼する。
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