研究課題/領域番号 |
19K00859
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
須賀 晴美 帝京大学, 理工学部, 講師 (70827279)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多読 / 電子書籍 / graded reader / 読解力 / reading fluency / 英語教育 / 情動 / リーディング |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「習熟度の差のある大学生が、継続的に授業内多読を行うと、トレーニング効果が出て読解力が向上するかどうか、かつその効果を学生は実感できるのか」という問いを解明することで、具体的には以下の3点である。(1) 多読が読解力にもたらす効果が統計的に有意になる時点でのトレーニング量、(2) 学生が向上を実感する時点のトレーニング量、(3) その量が習熟度によって影響を受けるかどうかを解明することである。 (1)に関しては、多読期間(半期)前後2回の読解力診断テストの平均点を比較したところ、24点の向上となり、統計的に有意な上昇が見られた。読了語数の平均は27,000語を超えた。易しいレベルで内容も興味深い本を多く載せているバーチャル図書館サイトを利用し、本を読んだ後の内容理解のクイズはノルマとせず、授業以外に1週間につき30分の読書を課題にした。名前は伏せた進捗状況の表をクラスごとに頻繁に配布した結果、競争の原理に従って学生が競って読むようになった。 (2)に関しては、多読期間前後の読解に関するアンケートの平均値を比較した結果、学生が確かな向上を実感していることが判った。「自分は英語を結構読めるようになっていると思う」、「多読用図書の英語なら辞書なしでも読める」、「辞書があれば英文は何とか読める」という項目などに有意差のある向上が見られた。2度目のアンケート実施時点で、平均読了語数は27,000語を超えている。 (3)に関しては、学生の習熟度と自信を実感するトレーニング量には相関が見られなかった。スタート時の読解直診断テストの点、終了時の同テストの点、読了語数を、それぞれ自信を反映するアンケート項目と組み合わせて相関を調べたが、相関は見られなかった。 これらの結果をさらに分析・考察して研究を深め、学習者の読解力向上のために資するところとしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス感染防止のため、予定していた対面型の読解力診断テストを受験させられなくなった。加えて4~5月はオンライン授業のみが許可されたため、オンライン上のマニュアルと指示だけで学生が新規に英語多読サイトを使いこなせるかどうかの不安があった。よって前期は研究を見送った。後期には遠距離通学の学生はオンライン受講、近距離のものは対面授業を受ける形となり、金星堂が VELC Test Onlineを開発したため読解力診断テストも受験可能となった。したがって研究を再開した。 研究再開後は、ほぼ計画通りの手順で研究が進められた。1回目の読解力診断テスト受験、英語の読解に関するアンケート①、電子書籍の多読と読書記録の提出、読解速度の測定、英語の読解に関するアンケート②、2回目の読解力診断テスト受験、データの記録と分析、研究協力者への成果の通知、学会発表、論文発表を行った。 研究方法の変更点は、授業内多読を30分とし、授業外30分の多読を次の授業時までの課題としたことである。また昨年度の研究方法を変更した点としては、多読サイトをコスモピア社のeSTATIONに変えたこと、半期に読む目標語数を3つ提示したこと、クラスごとの名前を伏せた進捗状況の表を頻繁に配布したこと、読書後のリーディングクイズを免除したことが挙げられる。これらの変更によって読了語数が大幅に増え(学期末の読了語数の平均値が27,000以上)、読解力診断テストも平均点において統計的に有意な上昇が見られ、アンケートの「読むことに関する自信」を反映する項目でも統計的に有意な向上が見られた。eSTATIONはパソコンでの操作性が大きく改善されており、易しいレベルの興味深い蔵書が多い。初回の多読終了後の反応、読解に関するアンケート②の自由筆記にも多読を楽しめた様子が観察できた。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度末に、本年度担当した1年生のクラス2つを担当できるように要望し、1クラスは計画通り同じクラスとなったが、もう1クラスは定員の関係で新しいメンバーも加えることになった。後者に関しては、2つのグループの違いを念頭に置きながら授業運営をしていきたい。新しく多読を行う協力者には読解力診断テストの受験と読解に関するアンケート①への記入が必要だが、前年度から継続している協力者にはその必要がない。本の選択に関する指示なども2通りになるので、学生が混乱しないよう注意しながら両方のグループに適した指示を与えたい。 2年生の担当クラス3つの中に、情報電子工学科の学生1クラスが含まれることになった。パソコンを得意とする学科だけに、他の学科の協力者と比較すると興味深い結果が得られるかもしれないと期待している。 本務校が対面授業重視の方針を出したため、大多数の学生は対面で授業を受けることが決定した。そのため4月より研究を開始できる運びとなった。1年を通して多読を行えるのは研究3年目の次年度が初めてである。今年度行ったような研究方法で通年に渡る多読の効果を観察したい。オンライン授業受講者は、現時点では緊急事態宣言下の都道府県から通学、あるいはその都道府県を通って通学する学生の若干名のみの予定だ。オンライン受講者には今年度行ったようなオンライン教材で学習してもらうことにし、緊急事態宣言が解除されたら対面で授業を受けてもらう計画だ。 今年度は読了語数をめぐって激しい競争が起こったため、最大読了語数が 99,141語と飛躍的に伸びた反面、功を焦って不正を行う学生も見られた。これを防ぐために、読了語数は減るかもしれないが、本を読んだ後に付属するリーディングクイズを受けることを義務付ける予定だ。 学会発表もZoomでの開催が主流となったため、日本多読学会年会等で発表を行い、論文の投稿も専門誌に向けて行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染予防のため、JACETや日本多読学会の年会やセミナーが全てZoomによる開催となったので、旅費や宿泊費が必要なくなった。また前期は同ウィルス感染予防のため研究に取りかかれなかったので、英語の電子書籍多読サイトに購読料を支払うことがなかった。このため本年度の経費は大きく減少した。後期には感染予防のため、予定にはなかった除菌ウェットティッシュを購入し、授業ごとに学校備え付けのタブレットを除菌・清掃したが、それでも次年度使用額が生じた。 実際、初年度は倫理委員会対応のため、本年度は新型コロナウィルス蔓延のため、研究が十分な期間行われていないので進捗状況はやや遅れているが、令和3年度は未使用額を通年のヴァーチャル英語図書館サイト利用料金、VELC Test Online 受験料、除菌用ウェットティッシュ購入などに充当し、令和3年度の配分額と合わせて、研究を推進させる計画である。これにより研究をより良いものに仕上げたい。
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