研究課題/領域番号 |
19K00859
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
須賀 晴美 帝京大学, 理工学部, 講師 (70827279)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多読 / 読解力 / 電子書籍 / graded reader / 英語教育 / 情動 / リーディング |
研究実績の概要 |
コロナ禍の影響による延長が認められたため、本年度は通年で研究できる2年目の研究となった。本年度の主な実績は、競争の要素を取り入れると協力者は着実に多読の読了語数を伸ばし、読解力も統計的に有意に向上させるということを検証したことである。 eSTATIONの管理システムが改善されたため、協力者のデータ処理を時間短縮できるようになり、度数分布表を前年度よりも多く配布することができた。度数分布表の頻度が増したことで競争が激しくなり、読了語数は前期の平均が23,264語 (前年度; 21,190語)、後期平均が26,246語 (前年度; 21,123語) と前年度よりも平均読了語数を増やした。読解力診断テストのReadingスコアの平均も、年度当初よりも年度末の方が統計的に有意に向上した。机間指導をしながらReading Quizでつまずいている協力者に読みやすいレベルを教え、本を推薦していくと、一番少ない目標語数をこなせない脱落者が減った。 これらは好ましい結果であるが、平均点の向上が24.93点 (前年度; 36.18点) と前年度よりも緩やかな上昇になった 。読了語数の平均が増えたのに、読解力診断テストの向上の度合いが下がったのでは、多読のトレーニングを積む意義が薄れてしまう。この原因はどこにあるのか、競争に煽られて十分な理解を伴わない読み方をした者が増えたのか、それとも読んでいた本のレベルが読解力診断テストの要求するレベルよりも低かったのか、あるいは他の原因があるのか、探求していく必要性を感じた。 一方、業績発表の方は順調に行うことができた。コロナ禍で滞っていた論文執筆がスムーズに行き、令和2年度と3年度の研究をそれぞれ論文にまとめて出版し、世界多読学会 (ERAW-2022) と日本多読学会で発表を行った。幾分研究の遅れを取り戻せた感がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度は研究4年目にして初めて、全ての参加者に最初から対面授業で多読を行うことができた。そのためオンデマンド用の教材をアップする必要がなくなった。大学がBYODの方針を打ち出したので、学生は自分の電子端末を教室に持ち込むことになり、教員が貸し出し用の端末を移動させる手間が無くなった。WiFi環境が改善されたので、アクセスポイント付きのワゴンを運ぶ必要もなかった。eSTATIONの管理システムが改善されたため協力者の読了語数を管理画面上で修正できるようになり、度数分布表の作成時間も短縮された。これらの改善点のおかげで授業運営にかかるエフォートが軽減され、業績発表に割く時間を捻出できるようになった。そこで令和2年度と3年度の研究の主要な点をそれぞれ論文にまとめて出版し、世界多読学会と日本多読学会で発表することができた。分析の細部に関しての論文が未発表なのが残念である。 令和4年度自体の研究結果は、読了語数の度数分布表を数多く配布することが出来たため、協力者間の競争が激しくなり、前年度より平均読了語数が増えた(前期23,264語、後期26,246語)。VELC Test Online のReadingスコアの平均も、年度末の方が統計的に有意に向上した (N = 73, SD = 42.27, t(72) = 5.04, p < .001)。 これらは好結果であるが、平均点の向上の度合いが24.93点と前年度よりも緩やかな上昇となったことが疑問として残る。この結果は、度数分布表の配布が頻繁すぎない方が競争を程良い程度に保ち、真の読解力向上のためには良いという示唆を与えている可能性がある。あるいは、協力者に1年生のクラスが増えたことも影響したかもしれない。データを精査し考察した後に、令和4年度の成果を世界多読学会で発表し、Proceedingsに掲載する予定だ。
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今後の研究の推進方策 |
前年度と本年度では研究の手順をほとんど変えていないのにもかかわらず、前年度のVELC Test OnlineのReading スコア向上の平均値は36.18点 (N = 69, SD = 47.56, t(68) = 6.32, p < .001)、一方本年度は向上の度合いが平均 24.93点 (N = 73, SD = 42.27, t(72) = 5.04, p < .001) と相当な差が出た。この原因を解明するために進捗状況表の配布を前年度(令和3年度)と同じ頻度にしてデータを取りたい。 原因としては、進捗状況表を頻繁に配布しすぎたので競争が激しくなりすぎ、落ち着いて理解を伴ったReadingができない参加者が生じた可能性がある。またクラス別にデータを分析すると、令和4年度で読解力診断テストの向上に統計的有意差を生じたのは2、3年生のクラスで、1年生2クラスは各々有意差を生じなかった。大学で1~2年間英語を学修した後の英語力を持った2、3年生と、高校までの学習にとどまる1年生では、同様な多読のトレーニングを行なっても上乗せできる読解力に違いを生じるのかもしれない。次年度は1年生を4クラスと多く担当するので、本年度と同様に向上の度合いが低く抑えられるのか、その点にも注意して研究を行いたい。 コロナ禍で遅れをとり、未発表となっている発見を論文にし、早期に発表することも責務である。本年度はExtensive Reading World Congress 2023がインドネシアのバリ島、デンパサールで開催されるので、現地に赴いて発表を行い、多読の研究者たちと情報交換に努め、Proceedings に論文を掲載する予定である。コロナ禍による再々延長により令和5年度が本研究の最終年度となる。研究成果をもれなく発表できるよう努力したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度には新型コロナウィルス蔓延のため、研究を半年しか行えなかった。令和3年度にはキャンペーン中ということでコスモピア社が購読料を値引きしてくれた。今年度研究を1年延長して経費を使用しても、これらの影響がまだ残っており、残額が生じた。 今年度も新型コロナウィルス感染予防のため、出席した学会が全てオンライン開催となった。そのため旅費と宿泊費が無くなったのも次年度使用額が生じた大きな理由である。 今年度の1年生はパソコン持ち込みが義務付けられていたので、学校の共用タブレットを使う必要がなく、除菌ティッシュも使用しなかった。2、3年生にも新型コロナウィルス感染予防の意識が浸透し、共用タブレットを使用するものが殆どいなくなったので、除菌ティッシュの使用は数枚にとどまった。そこで新たに除菌ティッシュを購入する必要がなくなった。 次年度使用額は、図書館サイト利用料や読解力診断テスト受験料などの研究費用に充当したい。令和5年度に通年の多読の研究が行えれば、令和3、4年度と合わせて3セットの通年のデータが取れることになる。令和1、2年度で半期のデータも取れたのだが、通年のデータが1セット増えることで、研究の精度と客観性が高まると期待している。
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