研究課題/領域番号 |
19K00874
|
研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
野呂 徳治 弘前大学, 教育学部, 教授 (90344580)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | レジリエンス / 第二言語習得 / 外国語学習不安 / WTC / ハーディネス / ホープ / 力学系理論 / ポジティブ心理学 |
研究実績の概要 |
本研究は,困難な状況に遭遇した際に生起する心理的ストレスに対する適応・回復の過程であるレジリエンスが,第二言語(L2)の学習及び使用のプロセスにおいてどのように発現・発達するのか,また,どのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とする。 研究5年目となる令和5年度は,前年度までに構築したL2領域固有のレジリエンスとしての「L2レジリエンス」(L2R)の構成概念モデルの妥当性の検証に取り組んだ。本モデルでは,L2Rの発現・発達に関わると考えられる下位の構成概念として,L2の学習・習得及び使用における困難や逆境に遭遇した際に経験する心理的ストレスに耐え抜く心の強さである「L2ハーディネス」(L2HD)と,目標達成の道筋を考えることのできる能力である「L2ホープ」(L2HP)を仮定している。この両者について日本人大学生を対象として質問紙調査及びインタビュー調査を実施した結果,それぞれの心理的実在性が確認された。また,L2HDについては,L2学習・習得及び使用に対するポジティブな態度及び価値の認識である「L2コミットメント」(L2CM),自律的かつ柔軟な対応姿勢である「L2コントロール」(L2CN),失敗を恐れず挑戦しようとする態度を表す「L2チャレンジ」(L2CH)の3つの下位尺度からなる試作版測定尺度を作成し,日本人大学生を対象に測定実験を実施し,その内容妥当性検証及び信頼性分析を行った。その結果,L2CNについては内部一貫性が十分ではなく,内容妥当性の面でも改善の必要性が認められたが,L2CM,L2CHについては,その内容妥当性,信頼性がともに検証された。 本研究で構築したL2Rの構成概念モデルにより,L2の学習及び使用における困難に遭遇した際の学習者のコミュニケーションへの接近または回避行動のメカニズムの記述・説明がより心理的実在性の伴ったものとなることが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究計画立案当初,研究2年目,3年目に予定していた英語圏での短期語学研修に参加した日本人大学生を対象とする質問紙調査及び面接調査が新型コロナウイルス感染拡大により実施できなかったため,研究期間を1年延長し,研究計画を変更し,同調査を研究5年目となる昨年度実施したが,研修参加者が少なく,十分なデータ収集を行うことができなかった。また,この研究計画の変更に伴い,英語コミュニケーション場面における外国語学習不安(FLA)と,L2を用いて自発的にコミュニケーションを行おうとする意志(L2WTC)の両者の相互作用により誘発されると想定されるL2Rの発現・発達のプロセスモデル構築並びにL2の学習・習得及び使用のプロセスにおける影響の解明のための質問紙調査及び面接調査並びに会話実験についても,昨年度実施することとしたが,質問紙調査及び面接調査については実施できたが,会話実験についてはスケジュールの調整がつかず実施することができなかった。 以上の理由により,L2Rの発現・発達のメカニズムを説明・記述するために仮設的に構築したL2R構成概念モデル並びにその発達モデルの吟味・精緻化の作業全般に遅れが出ており,その結果,FLAとL2WTCの相互作用におけるL2Rの関わり及びその影響の解明についても,限られたデータにのみ基づいた暫定的な仮説にとどまっている。
|
今後の研究の推進方策 |
L2R構成概念モデル並びにその発現・発達プロセスモデルの吟味・精緻化の作業をさらに進めると共に,FLAとL2WTCの両者の相互作用によるL2Rの誘発のための実験をオンラインでの実施に加え対面でも実施し,FLA及びL2WTCの相互作用によるL2Rの発現・発達メカニズムとその影響の解明のためのデータ収集及びその分析・解釈の作業を進め,研究全体の遅れを取り戻したいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により研究計画の変更を余儀なくされ,昨年度実施した質問紙調査及びインタビュー調査において十分な数の調査対象者を集めることができなかったこと,また,研究計画立案時に予定していた対面でのL2R誘発会話実験が実施できなかったことにより,当該年度の当初予定使用額の一部を次年度使用額として繰り越すこととなった。 次年度は,引き続き質問紙調査及びインタビュー調査並びに対面でのL2R誘発実験を実施すると共にこれまでの研究成果を国際学会において発表することも予定しているため,当該年度の次年度繰り越し分については,主に,調査・実験のためのハードウェア,ソフトウェアの整備並びに海外旅費として使用する予定である。
|