研究課題/領域番号 |
19K00887
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
平井 清子 北里大学, 一般教育部, 教授 (60306652)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 台湾 / 英語教育 / 教科書 / 題材内容 / 高等学校 / 課程標準(綱要) / 英千里 / 思考力 |
研究実績の概要 |
本研究は,戦後台湾の英語教育を教科書研究を中心とした歴史的視座によって多角的に行うものである。具体的には,戦後70年間(1945年~2017年)に公布された「課程標準」,「課程暫行綱要」,そして「課程綱要」(2008年)と,それらに準拠して出版された各準拠版高校英語教科書における題材内容(全83冊1064章)の調査から実証的に研究し,教科書への社会文化的,政治・経済的影響を明らかにする。これより,戦後台湾の英語教育の変遷と特徴,そしてその要因を学際的視野で明確にする。そして,実用英語と思考力養成に重きを置いた台湾の英語教科書を日本の英語教科書へ, いかに応用できるかを具体的に提案することである。 本年はその2年目となり,昨年の(1)理論研究と,(2)台湾の英語教科書の題材内容のNDCによる計量的,および質的調査をもとに,さらに以下について研究を進めた。まず,1962年「課程標準」準拠版教科書の計量的・質的調査分析とその編著者である英千里の研究を進めた。今一つは,英語教育に大きな改革の始まる1990年代以降における,1995年「課程標準」準拠版,そして, 2008年「課程綱要」準拠版教科書において,「文学」教材を使用して,どのような学力を培っているかを明らかにすることを試みた。 教科書調査の分析解釈の礎として,台湾の英語教育史,社会・政治的背景,そして英語教育の教授法や指導法を広く内外の学術書・文献を使用して,その知見を得た。これら研究成果を学会で口頭発表をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目,2年目の研究で予定していた基礎的,全体的な調査をほぼ一通り終えることができた。本年は,以下2点についての研究の進展があった。 まず,戦後台湾初期の英語教育へ貢献した人物の一人である英千里が編集した1962年「課程標準」準拠版教科書の調査分析を行い,英千里の教科書編纂の特徴を捉え,それに影響を与えた要因を特定するために,英千里の世界観と1960年代の歴史的背景を調査した。これにより,当時の教科書編纂にかかわる要因を明らかにすることができ,さらには,この教科書がその後の台湾英語教育に与えた影響を考察した。 もう1点は,英語教育への抜本的改革が行われ始めた1995年「課程標準」,2008年「課程綱要」準拠版教科書において「文学」教材が「思考力・批判力」,「創造力」を培う指導がどのように行われているかを教科書の発問・タスクから調査分析し,ある程度明らかにすることができたことである。台湾の教科書では「オーセンティック教材」とタスクの活用をその特徴とするCLTの指導法に則り,Task-basedな活動が設計され,文学教材が総合的な英語力の伸長に不可欠なものとして取り扱われていることが示唆された。同時に教科書全体がCBI,CLIL教育活動の設計に通じており,深い思考に働きかける言語活動を協働学習と組み合わせていることが明らかとなった。 コロナ禍で,台湾への渡航ができず,実態調査が進まなかったのは大変残念であるが,口頭発表3件を行った。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は,戒厳令解除後の教科書題材内容と発問・タスクの調査分析から,その特徴を明らかにする。このとき,台湾のみならず,周辺国との関係を鑑み,台湾の教科書編纂にかかわる要因を明確にしていく予定である。 コロナが収束すれば,早々に台湾に赴き,「質問紙,聞き取り調査」を行う予定である。そして,それぞれの準拠版教科書と特徴をさらに深め,まず、英語教育の文献と参照させ,さらに社会・経済的,文化的,歴史的観点からの質問紙,聞き取り調査などの実態調査を重ねる予定である。 これらにより,台湾の英語教育の特徴がどの時点で生まれどのように変遷したのか、その理論的背景も含め学際的に視座で明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に予定していた、台湾実態調査、および、国際学会での発表等が新型コロナ感染拡大抑制のため実行できませんでした。このため、予定していた旅費の使用ができなかったため。また、4月より緊急事態宣言下で、大学で仕事ができず、研究用図書の購入なども予定通り進まなかったので、次年度使用額が生じました。
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