研究課題/領域番号 |
19K00889
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
奥脇 奈津美 津田塾大学, 総合政策学部, 教授 (60363884)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 第二言語習得 / 語彙 / 句動詞 / 回避 |
研究実績の概要 |
第二言語習得研究の分野において、近年、定型的な語の並び(コロケーション、イディオム、句動詞など)の処理と使用に関する研究が注目されるようになった。定型言語が母語話者の言語運用で大きな部分を形成していることがコーパス研究で明らかになり、母語話者の流暢な言語運用を可能にしている。しかしながら、第二言語学習者にとっては、その習得は容易ではなく、使用率も低く、使用する表現も限られていることは広く指摘されている。本年度の研究では、特に句動詞に焦点を当て、習得を困難にしている要因について、言語的分析と実証的研究を通して提案し、体系的な言語指導の重要性を示した。 句動詞は他の定型言語と同様、第二言語学習者にとって習得は容易でなく、その複雑な性質から英語の中でも最も習得が困難である項目の一つと認識されているが、実際、何がその難しさを生んでいるのかわかっていることはそれほど多くなかった。本研究では、そこに光を当て、句動詞の言語的分析を通して、1) 構成する個々の単語の意味から容易に意味を理解できないという問題 (non-compositionality)、2) 許される構文のバリエーションの多様性(多くの句動詞は助詞の移動が可能であること)にあると提案した。また、第二言語学習者による句動詞の理解や運用について、嗜好性テスト、翻訳テスト、ライティングを通して詳細に調べ、先行研究で示された通り、「回避 (avoidance)」と呼ばれる現象がみられることを示した。 定型言語の使用が効率的なコミュニケーションをうみ、だからこそ広く実際の言語使用で活用されている。したがって、第二言語の教育において、句動詞を含むこのような複数語からなる表現の習得をより意図的に促していくことが必要であるということを提案した。第二言語学習における定型言語の役割を強調したという点において意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,コロナ禍の影響が大きくあり、主に文献研究を行うことが主な内容であった。句動詞の統語構造に関する文献研究、第二言語学習者による句動詞の習得や使用に関する文献研究を進めることができ、これらを総括して論文にまとめることができた。また、そのようななかでも、第二言語学習者から集めたライティングのデータについて、特に句動詞に焦点を当てて分析を進めることができた。多肢選択式の嗜好テストや翻訳テストも作成し、簡単な調査を行い、句動詞の嗜好性、理解と産出の相違点についても調べることができた。一方、コンピュータを利用して、参加者一人一人から対面でデータをとる実験については、コロナ禍のため遂行できなかった。実験のためのマテリアル作成も遅れており、予定していたパイロット調査もできなかった。 次年度もコロナの影響は続くことが予想されるため、対面でのデータ収集は難しいかもしれないが、状況が改善すればすぐにでも行いたい。そのため、いつでも開始できるようマテリアル作りを進めておき、コロナの影響が落ち着いたら、すぐにパイロット調査を行い、必要であれば実験内容を修正し、本調査へと進めたい。ただ、対面の実験遂行が困難である状況が続くようであれば、オンラインでできる調査方法を探る。 以上のことから、現在の進捗状況としては「やや遅れている」が、状況によっては実験方法を変更するなどして、予定を遂行する準備を整えたい。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の影響によって、コンピュータを使用して対面で個別に行うデータ収集の方法を諦めざるを得なくなる場合、代わりにオンラインで行う別の方法を考える必要性が生じる。計画通りに対面でのデータ収集が可能であるという想定で準備を進めておくことはもちろんであるが、そうでない場合も念頭において準備しておく必要がある。コロナ禍では調査協力者を募ることも容易ではないと思われるため、時間に余裕をもって準備を進めるようにする。 また、通常は参加者を集めて一斉に行う調査についても、オンラインで行う可能性を模索する必要があろう。オンラインでは、計画通りの実験をすべて行うことができないので、どの程度までが可能で、どの程度計画に修正が必要になるかを考え、できる方策を施した上で調査を進めていきたい。言語的分析の研究の比重を多めにすることも考えている。何れにしても、状況に応じて継続的に研究を進めていく予定である。 今後は,定型言語のなかでも句動詞の習得研究に重点におき、言語的研究及び実験を通しての実証的研究を進めていく。具体的には、第二言語学習者による句動詞の処理、理解、産出について、文法性判断テストや嗜好性テスト、コンピュータを利用して反応時間を測定する実験のためのパイロット調査を実施し(上記の通り状況によっては調査方法の変更もあり)、結果の分析をし、オンラインでの学会発表を行い、論文報告へとつなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験用のソフトウェアを購入予定であったが、コロナ禍にあってそのソフトウェアを使用した調査ができそうになかったため、未購入である。また、統計用のソフトウェアを購入する予定であったが、以前に購入した古いバージョンのものを使用していたためまだ購入していない。これらについては次年度に最新のバージョンのものを購入する予定である。その他にもコロナ禍の影響でできなかった調査があるので、そこで必要になるはずだった参加者への謝礼については、次年度使用予定である。さらに、学会発表がオンラインになったり、海外出張ができなかったりと、旅費にも大きく次年度使用額が生じた。
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