研究実績の概要 |
令和元年度は、学習者コーパスを用いた社会語用論的能力の特定に向け、予備調査の実施の他、過去の分析結果を整理・再考し、今後の研究の方向性を位置づけ概観を捉えた。要求の発話行為例におけるポライトネスの判断調査では、初級者(TOEIC120-405)約60名及び中級者(TOEIC525-650)約70名に、返品交換交渉、試着の依頼、購入表明の異なる社会的場面における様々な要求の発話を提示し、その適切性を判断してもらった。大学英語教員20名の判断調査(Miura,2017)によるランキングと比較すると、初級者よりも中級者の加重平均値が教員のそれに近い傾向にある。初級者は教員や中級者によって適切性が高いと判断された項目を低いと判断し、低いと判断された項目を高く判断した。よって学習者の社会語用論的判断能力は、初級者になるほど教員が想定するスタンダードから乖離する傾向が高まると言える。一方、著者による一連の先行研究結果から、A2(初中級)学習者は、要求の負荷度が高いwantを間接的な言語項目(would like, like, look for, can, could)に自己訂正する傾向が見られ、B1(中級)学習者は丁寧度の高いcanやcouldの使用頻度がA2よりも3倍高い。習得段階が上がるにつれて、ポライトネスの意識が高まり、相手のメンツを脅かす行為(Face Threatening Act)を回避できる社会語用論的能力の向上があったとも想定できるが、A1(初級)学習者は、語彙文法能力が未発達なため使用された語用言語学的項目から社会語用論的能力を推察すること難しいことが判明した。なお、これらの分析結果を総括すると、Bardovi-Harligら(1998)の先行研究にあるように、日本人英語学習者が持つ社会語用論的判断能力とその発信能力には乖離があることが判明した。
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