研究課題/領域番号 |
19K00891
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
三浦 愛香 立教大学, 外国語教育研究センター, 准教授 (20642276)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 語用論的能力 / 社会語用論的能力 / 学習者コーパス / 相互行為能力 / 発話行為 / 依頼 |
研究実績の概要 |
本研究では、日本人英語学習者の話し言葉コーパスを使用して、社会語用論的能力を検証できるかを探索し、そこから得た示唆を外国語教育における語用論的能力の指導に応用することを主目的としている。これまでの研究において、本コーパスはインタビューテストの書き起こしから成るため、語用言語的情報を抽出することは可能であるが、学習者の発話が社会語用論的に適切であるかを判断することは難しいことが判明した。その理由は、学習者コーパスは、より自然発生的かつ散漫的な発話であるため、発話の状況や聞き手との力関係や社会的距離、選択した言語表現が聞き手に及ぼす影響等の様々な変数を制御できないことが挙げられる。そのため、発話行為を意図的に抽出するDiscourse Completion Taskとは異なり、依頼表現を単体で抽出してその適切性を判断すると、前後の文脈を無視し、相互行為能力として教育的な示唆を得ることが難しいため、令和4年度は、日本の英語教育の現場での実践を念頭に置き、対象データの社会語用論的能力を複数の判断者及び複数の観点から判断することにした。CEFR B1レベル以上の学習者データと想定される買い物の返品・返金交渉のロールプレイを日本の大学で英語教育に携わる判断者に複数提示した。判断者は、日本の大学の英語教員4名(うち2名は英語母語話者と日本語母語話者で、各話者グループは、語用論について専門的に学び、語用論的能力の指導や研究の実践経験のある1名とない1名ずつ)から成る。聞き手である試験官とのやり取りを考慮した相互行為や交渉結果に対する総合評価、依頼の適切性の判断、習熟度の想定だけでなく、教育的及び相互行為的な向上を念頭に置いて学習者や試験官に対しての提言を出してもらった。前述の質的分析は、判断者間の信頼性は低い傾向にあったが、社会語用論的能力を相互行為的に捉えることの重要性の示唆を得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初は、当該学習者コーパスのデータを補完するものとして、対面によるロールプレイ(買い物での返品返金交渉)を英語学習者である大学生によって演じてもらい、発話データには、使用言語だけではなく、非言語情報(顔の表情やアイコンタクト、ジェスチャー等)も検証する予定であった。しかし、コロナ禍により、対面かつマスクを外した状態でのデータ収集が不可能となり、研究アプローチの大幅な変更を余儀なくされた。よって、令和4年度の前半は、新たな研究手法を探るため、第二言語語用論(習得と指導)における多様な文献の収集や研究会の参加、他大学の研究者の方との意見交換や共同研究を実施することに時間を費やしたため、遅れが生じている。しかし、最終的には、当該コーパスのデータを判断していただく研究協力者の選定及び研究協力の依頼を進めることが実現した。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、研究協力者4名の方にさらなるデータを提供し判断調査を実施していただく。なお、7月にベルギーで開催されるThe 18th International Pragmatics Conferenceにて、Sociopragmatic Analyses of the Sequential Organisation of L2 Requestsのタイトルにてポスター発表をする予定である。本発表では、ロールプレイにおける依頼表現の前後(pre-expansionやpost-expansion)やその順序にも着目した研究手法の枠組みを提示する。また分析の着眼点を大きくミクロ及びマクロの側面に分ける。具体的なミクロ分析としては、pre-及びpost-expansionの機能の分類(背景情報、苦情、皮肉、追加情報、感情表現、事実の提示等)やその順序(演繹的か帰納的か等)について検証し、学習者と試験官のやり取りにおいて、修復やco-constructionなど相互行為的な現象についても着目する。マクロ分析では、前述の各分析項目が学習者の習熟度や対話の場面、依頼の発話行為とその交渉の結末、発話の社会語用論的な適切性とどう関連しているかを検証する。その際に、協力者による判断調査の結果を報告する。また、8月に東京で開催されるThe 62nd JACET Conventionの公募シンポジウムにて、語用論的能力の向上を目指した指導や習得研究に関して発表者の一人として登壇する。アンケート調査に協力いただいた日本の高等教育機関の100名以上の英語教員が語用論の専門知識があるか、また語用論的指導を意識的に実施したり、研究実践を行ったりしているかの実態や指導の導入の難しさについて報告する。日本人英語学習者のデータの分析と教育現場の実態検証の統合により、具体的な教育的示唆を得て研究の集大成としていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度は、新型コロナウィルスの影響で、現地で開催される国際学会の参加を見送ったことや、ほとんどの研究会や学会の大会がオンラインで開催されたため、交通費や宿泊費及び参加費等の出費が少なかったため。また、研究協力者への謝礼もデータの分析依頼が令和4年度の後半に集中したため、発生した件数が少なかったため。研究手法の見直しに時間を費やす必要が生じたため、論文執筆に至らず、英文校閲サービスの使用が発生しなかったため。令和5年度は、国際学会や国内学会の発表及び参加、論文執筆の英文校閲費の使用、研究協力者への謝礼、バイアウトの利用(秋学期1科目)を予定している。
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