読解研究では、テクストの難しさや内容理解を問う質問のあり方についての研究が1990年代より行われてきている。事実を問う、事実を基に総合理解力を問う、事実を基に推論できるかを問うという質問形式のあり方の研究が進められてきた。しかし、これらの多様な質問形式のあり方と、難易度の異なる文との関わりは必ずしも明らかになっていない。その主たる理由として、言語学習を扱う上では、読み手の言語能力に即して、扱う文をあらかじめ高頻度語彙へ修正したり、文法項目を取り除いたりすることで、読み手への認知負荷を下げる工夫が多くの場合なされている。これらを踏まえ、先行研究を概観すると、難易度が上がるほど、あるいは、難易度が下がるほど、読解の正答率が上がるという、「難易度」と「正答率」との間に混在した結果が示されてきている。一見すると易しい文が読み手にとって有利に働くと捉えられているのに、なぜ低頻度語彙を含む難解な文において理解が高まるのか。上記を踏まえて、異なる難易度の文と多様な内容理解を求める質問との関わりを探った。 研究結果は、易しい文、難しい文、標準文の3形式を対象に、正答率割合を共分散分析で調べた結果、3群間に交互作用が見られた。事後分析であるボンフェローニの比較から、難しい文が易しい文より正答率が高く(p<.01)、また難しい文が標準文よりも有意に高い(p<.05)ことが示された。次に質問形式と異なる文との関わりから、推論を問う場合は難しい文が、正答率が高い(p<.05)ことが示された。
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