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2021 年度 実施状況報告書

東アジア相互認識の近世的淵源

研究課題

研究課題/領域番号 19K00933
研究機関千葉大学

研究代表者

山田 賢  千葉大学, 大学院人文科学研究院, 教授 (90230482)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワード中国認識 / 支那 / 皇国
研究実績の概要

幕末の儒学者、齋藤拙堂の漢文による著作集『拙堂文集』の記述について、とくにその中国呼称と自国(日本)呼称について集中的に検討を行なった。拙堂の漢文著述のなかでは、中国と日本の呼称は多くの場合、彼邦・本邦といった価値判断を伴わない語彙によって表記されている場合も多いのだが、一部の論説においては、「支那」、「西土」、「満清」といった中国呼称や、「皇国」といった自国呼称が使用されている。こうした語彙の使用は、偶発的、ないし恣意的なものではなく、論説の主題と文脈に照らして選択的に使い分けられていたと考えられる。とりわけ「支那」語彙が使用される文脈においては、進んだ技芸を誇る「泰西」についての叙述が必ず出現し、過去においては優れていたものの、現在は「泰西」に遅れをとっている「支那」との対比が鮮明にされていた。つまり蘭学の文脈に由来する中国呼称である「支那」の使用は、西洋との対比のもとに〈立ち遅れた〉中国の状況を記述する際に意図的に使用された可能性があることを明らかにした。一方、地理的な西方を意味する「西土」、当時の中国大陸を支配しているのが満州族による清朝であることに由来する「満清」は、「支那」に比べればより価値中立的であると言えるが、ただし注目すべきは、拙堂をはじめとする多くの幕末の儒学者たちが、文明の中心を含意する「中華」「中夏」「華夏」などの語彙の使用を周到に回避していたことである。対して、中国大陸王朝国家のように戦乱を伴う王朝交代を経ることなく、一貫して天皇家とこれに他する忠誠が存在した(と評価される)日本列島の伝統に注目する文脈の中では「皇国」という語彙が出現する。今後、さらなる検討が必要であるが、既にして幕末儒学者のうちに、自国を特権化する「皇国」の思想と、「中華」の価値を剥奪しようとする欲望とともに使用される「支那」語彙が出現することが明らかになった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

コロナ禍によって、当初計画していた中国に渡航しての版本調査、中国の研究者とのディスカッション等を実施できなかったため、全体の研究計画がやや遅滞することとなった。

今後の研究の推進方策

本年度、可能であれば、東アジア地域への渡航を伴う研究交流を実現する。ただし、やや困難であると判断される場合には、それに拘泥することなく、オンラインによる交流と共同研究を推進して成果を取りまとめる。

次年度使用額が生じた理由

研究の取りまとめに向けて国内外旅費を使用する予定であったが、コロナ禍の未終息によりそれらの予定を断念したため、次年度使用額が生じた。今年度については勤務先においても国内外への出張にかかわる制約はなくなっており、研究会開催等に向けて、出張旅費・招聘旅費等を使用する計画を立てている。なお、研究会の対面開催がやや困難であると考えられる場合には、オンラインの研究集会を複数回開催し、記録画像の編集等を実施する。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件)

  • [雑誌論文] 「支那」と「皇国」2022

    • 著者名/発表者名
      山田賢
    • 雑誌名

      人文研究(千葉大学)

      巻: 51 ページ: 133-165

  • [雑誌論文] 清末民国期の地方志編纂─地域と宗族を記録すること─2021

    • 著者名/発表者名
      山田賢
    • 雑誌名

      アジア遊学:書物の中の近世国家

      巻: 269 ページ: 260-266

    • 査読あり

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公開日: 2022-12-28  

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