『オルジェイトゥ史』、『ヴァッサーフ史』、『集史続編』などのペルシア語史料の軍事・外交・東西交流に関わる部分を、同時代の漢文資料(實録・筆記・文集・石刻等)、ヨーロッパ諸語資料、図像資料等を参照しながら読み進めた。 そのなかで見出した学界未知の諸記録、たとえば日本、ジャワ遠征に関わる一兵卒の碑記資料、国家間の外交上の重要な贈答品であった珍獣の記録などを分析し、その成果の要点を紹介した。また、大モンゴル初期のウイグル文字モンゴル語・書記術の導入には、ケレイト王国やナイマン王国のウイグル官僚――カライガチュ・ベイルク、ヨグリムテムル、タタルトンガ等が大いに貢献したが、現存するウイグル文字モンゴル語資料のなかでは最初期に属する碑文の添え書きについても紹介した。クビライの『聖訓』がポスト・モンゴルの王朝のひとつティムール朝でも王子たちの帝王学の教科書として使用されており、ティムールの孫のピールムハンマドが一節を筆写した現物がのこっていることも明らかにした。 『モンゴル時代の「知」の東西』(名古屋大学出版会 2018年)で論じていた諸課題のうち、大元ウルスで作成された法令書・医学書・道釈画がほぼ同時期にイランや日本に伝来した事実について、新出の文献や未紹介の記事から補足した。 じゅうらいの研究で誤りが多い「大明混一図」、「混一疆理歴代国都之図」の中東・ヨーロッパの地名の解読を進めた。この成果はまもなく公表の予定である。
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