研究課題/領域番号 |
19K00946
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
工藤 晶人 学習院大学, 文学部, 教授 (40513156)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 比較史 / グローバル・ヒストリー / 地中海 / 景観 |
研究実績の概要 |
地中海史の意義は、ナショナル・ヒストリーかグローバル・ヒストリーかという二項対立的な見方を越えて、その中間域となる空間を主題化することにある。地中海の一体性を論じたブローデルから、多様性と分断を強調するホーデン・パーセルへと至る研究動向をふまえ、近代の地中海史をどのように描くべきか。これが、本研究の原点にある着想であった。 本年度の研究では、地中海の概念史について検討をすすめた。まず、「地中海」という概念が19世紀以降にラッツェル、ヴィダル=ドゥ=ラヴラーシュらの地理学の系譜のなかで発展した過程を確認した。また、そうした地理学の発展と並行して、北アフリカや中近東地域における紀行書、地誌のなかから、空間としての地中海の一体性を強調する言説を考察した。とくに注目したのは、18世紀の北アフリカについて著述を残したジャン=ミシェル・ヴァンチュール=ドゥ=パラディである。地中海諸港で活動した通訳者の家系に生まれたこの人物は、チュニス、アルジェの領事として長い経験をもち、パリに赴任した時期には啓蒙思想家にさまざまな情報を提供した。ナポレオンのエジプト遠征の際に通訳・翻訳者として随行し、有名なエジプト人への布告の作成にかかわったことでも知られる。遠征中にパレスチナで没し、手稿として残された北アフリカに関する記述は死後に出版された。これは、オリエンタリズム言説を生産したパリの東洋学者とは異なる系統の、生涯のほとんどを現地ですごした専門家の一例である。次年度以降も、さまざまな事例を比較検討することによって、思想と人の交流という視点から地中海をとりまく循環的な動態をとらえることをめざす。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、コロナウイルス感染の広がりによって研究活動にさまざまな支障が出た。このため、予定した計画を変更して書誌上の調査研究を主に進めたが、当初の予定よりやや遅れが出ていることは否定できない。本年度より研究機関の後半に入るため、あらためて計画を練り直し、本年度、来年度も研究上の制約がつづくことを前提とした実施を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
海外での調査機会が制限されるという前提に立って、国内から入手可能な史資料の利用を柱として以下の研究を進める。 1.景観認識の歴史学の理論動向について調査を行う。ダニエル・ノルマン、ベルナール・ルプティらが先鞭をつけた地中海史研究と、サイモン・シャーマに代表される景観論とを架橋する可能性について検討する。 2.フランソワ・トットについて調査を進める。ハンガリーに生まれフランスの宮廷に仕えたトットは、黒海・地中海各地で領事職を務め、数多くの著作、報告書類を残した。後のエジプト遠征につながる構想を残したことでも知られるトットについて、前述のヴァンチュール・ドゥ・パラディとの職歴の重なりなどに着目しながら考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、コロナウイルス禍によって制約が生じたため、これまでに購入した文献を資料として研究を進めた。
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