研究課題/領域番号 |
19K00948
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研究機関 | 公益財団法人東洋文庫 |
研究代表者 |
徐 小潔 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 研究員 (20537865)
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研究分担者 |
江南 和幸 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 研究員 (70029106)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 近世ヨーロッパ / 紙質 / インキュナブラ / 非破壊調査分析 |
研究実績の概要 |
2020年度は16~17世紀にヨーロッパ各地で刊行された書物を対象として、高精細デジタル顕微鏡を用いて紙の非破壊調査分析を行った。また、比較するため、同じ手法で15世紀末にヨーロッパ各地で刊行されたインキュナブラへの調査分析も行った。その結果、近世ヨーロッパで使用していた印刷用の紙は地域によって異なる特徴を持つことが判明した。古布を原料として製造された紙以外に、一部の地域で使用されていた紙から製紙原料となる藁も観察できた。これまで言われてきた「19世紀までヨーロッパは古布からしか製紙できなかった」という主張を覆す可能性を持つ調査結果となった。 また、インキュナブラおよび16~17世紀のヨーロッパの印刷用紙から「青い繊維」が製紙原料に混合している特徴を新たに発見した。先行研究では18世紀から、紙の色を白くみせるため、「青い繊維」を混ぜはじめたとしていたが、実際にはそれ以前にこの方法が使われていた可能性がある。 一方、藁を製紙原料に混合させる方法は、中国及び日本ではよくみられる。そのため、近世ヨーロッパで使っていた藁が入っている印刷用紙は、中国あるいは日本から輸入された可能性もある。これを実証するためには、同じ種類の紙が中国や日本で製造されていたかどうかを確認する必要がある。従って、同じ方法で同時代の和紙と中国紙も調査・分析した。しかし、現時点では、ヨーロッパで用いられていた紙はまだ見つかっていない。今後は引き続き調査データの収集に努力する予定。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本来計画していたヨーロッパでの文献調査は新型コロナウイルス感染症の世界規模の拡大により、実現できず、近世ヨーロッパにおける製紙、紙の流通に関する史料を確認することができなかった。同じ理由で、研究報告を予定していた二つの大会がヨーロッパで開催されるため、2021年度以降に延期となった。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の状況によって、2020年度に実施する予定だったヨーロッパでの文献調査を行うか否かを慎重に見極めるうえで、今後の研究方法を定める。海外調査が難しい場合、日本国内で近世における東西交流に関連する史料を調査し、19世紀以前に藁が含まれている紙がヨーロッパ刊本に用いられていた理由を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の世界的規模の流行による海外渡航禁止が原因で、2020年度に予定していたヨーロッパでの資料調査を実行できなかった。また、同様の理由で参加予定のシンポジュウム、学会の開催も延期になったため、国内外の出張はできなかった。 今後は新型コロナウイルス感染症の状況を見極め、国内外の史料調査や学会などの参加を再開したいと考えている。
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