2019年8月の調査に続いて、2022年8月23日・24日の両日、米国・ワシントンDCにある米国議会図書館トーマス・ジェファーソン館において、兵法書の調査および写真撮影を行った。 今年度はそのうちの『軍敗要目集』を翻刻し、解題を付して『三重大史学』第23号(2023年)に、「【史料紹介】米国議会図書館所蔵『軍敗要目集』」として掲載した。 本書には、「参謀本部文庫」の印が捺されており、陸軍参謀本部旧蔵本である。その後GHQに接収されて米国に渡り、米国議会図書館所蔵となるが、その経緯については、田中宏巳『米議会図書館所蔵占領接収旧陸海軍資料総目録』(原書房、1995年)ならびに米国議会図書館蔵日本古典籍目録刊行会編『米国議会図書館蔵日本古典籍目録』(八木書店、2003年)などに詳しい。 本書は、巻12末尾に「井伊掃部頭直孝従士 権道正伝 冨上喜大夫藤原因利編集之」と記されており、井伊直孝(1590-1659)は、井伊直政の次男として駿河国中里で誕生し、彦根藩第三代藩主となり、慶長15年(1610)掃部頭に任官している。本書を執筆したとされる冨上喜大夫藤原因利については不詳である。 書目にある「軍敗」は「軍配」と同義で、軍隊の指揮をすることを意味し、本書は戦いのための戦略・戦術について記されている。兵法学の変遷については、石岡久夫『日本兵法史』上・下(雄山閣、1972年)に詳しいが、本書もその一つとして位置づけることができる。 本書の構成は、巻一築城、巻二進発法并行列、巻三陣宿始終作法、巻四陣場割、巻五斥候、巻六攻城、巻七夜討、巻八船戦、巻九旗旌、巻十合戦并足軽、巻十一首実検序説、巻十二天文日取之事からなっている。このうち、巻五に斥候の方法についてまとめて記されるが、他の巻においても忍びの方法について叙述されており、今後の詳細な検討を必要とする。
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