前年度に引き続き、日本中世民衆思想の解明を主軸に、その歴史的な脈略を前近代ユーラシア史において位置づける試みを進めた。 学会報告「銘文と仏書からみた中世の民衆」(中世地下文書研究会シンポジウム、立教大学)では、12世紀から16世紀に地域で描かれ地元に残された文書を素材に、「不殺生」「慈悲」など仏教用語を用いた共同規範の表出や、庶民男女の性差別超克の思想、写経を介した村落結合強化と書記言語の獲得、といった事例を整理した。この報告を原稿化し、研究期間全体を通じた成果刊行のための論文集に入れることとした。 継続してきた原本史料調査の成果として、『延命寺(愛知県大府市)所蔵『大般若経』調査報告書』を刊行した(共著、大府市歴史民俗資料館刊行)。 研究期間全体を通じた成果の刊行に向けて、単著論文集の編集作業を進め、出版社との打合せを実施した。そのことに関わって、本研究の成果を歴史学の現代的課題と関係づける考察の一部として、「書評:歴史学研究会編『コロナの時代の歴史学』をめぐって―響き合う問題意識―」(共著、『歴史の理論と教育』第157)を執筆した。 2023年2月13日から21日にウズベキスタン共和国に渡航し、「日本中世史における普遍的叡智表出の仏教史的研究」(タシケント国立東洋学大学)、Historical relationship between the Eurasian world and the Japan Archipelago: A world that encompasses Uzbekistan and Japan(ウズベキスタン国立世界言語大学)、「歴史と天皇―縦軸で考える―」(サマルカンド国立外国語大学)、「ウズベキスタンと日本を包む歴史的世界」(シルクロード国際ツーリズム文化遺産大学)をそれぞれ報告した。
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