これまで武術は武士の特権だと理解されてきたが、近世初期から全国で庶民武芸が盛んであり、各地に無数の庶民剣士が存在していた。これは従来の身分制度理解の転換を迫る歴史の実態である。19世紀に対外的危機が迫ると、1849年に各藩に対して海防強化令を出すが、そこでは百姓や町人などを農兵として取り立てることが指示されていた。これは全国に広範に存在する庶民剣士を国防体制に組み込むことを目的としており、これによって日本の陸上戦力は飛躍的に強化されることになった。多数の庶民剣士の存在が日本の国防体制の転換に大きな影響を与えたという事実は、近世日本の身分制と国防体制の理解に大きな影響を与えるものである。
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