研究実績の概要 |
研究対象として設定した、伊豆国に知行所を有した旗本松下家関係の文書を多数含む飯田家(静岡県伊豆市牧之郷)所蔵資料の調査・整理を続けた。予定していた頻繁なペースでの訪問調査は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響によりできなかったが、感染状況をにらみつつ、回数を減らすなどして行った。 飯田家の資料整理については、ほぼ完了させ、その成果を『静岡県伊豆市牧之郷飯田家資料目録』(2023年1月31日発行、総頁394頁)として刊行することができた。同目録に収録した資料は、文書(6,347件)、典籍(1,948件)、絵葉書(281件)、書画(845件)、短冊(526件)、ポスター(18件)、写真(191件)、器物(53件)といった分類にもとづき整理したもので、同家に伝来した近世・近代資料の総合的な目録になっている。 また、飯田家資料を主として活用した論稿として、「旗本土着と戊辰戦争-伊豆の松下加兵衛とその周辺-」(『国立歴史民俗博物館研究報告』第240集、2023年3月31日発行、101~199頁)を発表することができた。本論稿は、論文形式の解説と、史料翻刻からなり、戊辰戦争下で行われた旗本の采地土着と農兵の取り立て、新政府軍への所属と戦闘への参加、領主としての身分喪失の過程、旧領・旧領民側での記録化の諸相などについて、史料紹介と考察とを行った。 研究期間全体を通じての成果は、幕府瓦解後、一時的に知行所に土着し、領主としての生き残りをはかった高禄の旗本層が、戊辰戦争の遂行という新政府への協力を行ったにもかかわらず、結局は領地や家臣を手放し、近代社会へと投げ出されていった姿を、具体的な史料と史実を通じて明らかにできたことである。また、研究の裏付けとなった資料(飯田家資料)について、全体の整理・目録化を達成し、その将来的な保存・活用のための基礎づくりを行い得たことも大きい。
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