研究課題/領域番号 |
19K00972
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 伸之 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 名誉教授 (40092374)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 社会=空間構造 / 分節的把握 / 江戸内湾臨海部村々 / 江戸近郊地帯 / 地帯構造 / 海苔養殖と海面秩序 / 交通労働と「日用」層 / 鉄道一件 |
研究実績の概要 |
本研究は、江戸城下町南部近郊地帯を対象に、その地帯構造の分節的な社会=空間構造の歴史的特質を検討しようとするものである。当初、四つ課題(A「領」を枠とする地帯における分節構造」、B臨海部村々における海面利用と秩序、C東海道品川宿-川崎宿間における交通労働、D多摩川河口域と江戸との舟運)を掲げたが、これらのうち、A・Dに関わる六郷領の地帯構造把握について、引き続き主に近世後期の八幡塚村を素材として、分析作業を進展させた。しかし、大田区立郷土博物館・品川歴史館などを初めとする史料保存機関での閲覧利用が、covid-19の状況状況下で困難となった。このため予定していた三大森村(北大森村・東大森村・西大森村)に関連する近世の村落史料を新たな素材として収集する作業を中断せざるを得なく成った。また課題Cとして掲げた「東海道品川宿-川崎宿間における交通労働」については、新たに明治3~4年における新橋・横浜間鉄道の敷設に伴う、鉄道予定地とされた地域社会の動向が注目され、刊行史料を中心に史料の残存状況について把握を試みている。その中で、東京都公文書館所蔵「鉄道一件」(明治三年・四年)の概要を把握し、それらの分析によって、品川宿村以北に展開する高輪海岸から芝一帯における鉄道建設と、それに伴う地域社会の側ーとりわけ海岸利用を不可欠とする漁民・舟運業者・床店営業者などーとの相克状況について、いくかの知見を得た。また品川宿村から多摩川に至る地帯の、鉄道用地とされた部分とそれを包摂する村や町などの地域社会との関係を示す関連史料を収集中である。今回の主題との関わりで重要な方法上のポイントとなる、地域社会論や地帯構造論について、戦後歴史学を主導した先学の調査・研究の成果を振り返り、近世初期秋田藩院内銀山と周辺社会との関係構造に関する検討を行い、論文を執筆し、一部を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
covid-19蔓延の影響で、史料保存の諸機関が閲覧停止などの制限を実施したため、本研究の基礎となる史料収集が、きわめて困難となった。また、主題に関連する各地の史料保存機関、史料調査対象なども、遠方への出張が困難となったため、そのほとんどを中止せざるを得なくなった。また予定していた海外での本主題に関する研究交流についても渡航がほぼ不可能隣る中で取りやめざるを得なくなり、研究計画の全般に大きな影響を被った。このため、既得の史料素材(写真・コピー・筆耕原稿など)や刊行史料などの分析によるデスクワークが大半とならざるを得ない状況にある。一方、キーワードに掲げるような方法論については、素材を全く異にするが、秋田藩院内銀山、南信濃飯田城下と周辺地帯、などを対象として研究を進める中で、その深化を図っている。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要や現在までの進捗状況で述べたように。本研究ではcovid-19のパンデミックにより2020年度の研究計画に多くの支障が生じた。今後は、当初計画に掲げた四つの課題の一部を縮小し(課題D:多摩川河口域と江戸との舟運に関する検討、など)、他方で、六郷領に隣接する諸地帯の内、品川領などに検討対象を拡大し、その以北の芝地帯にも素材を求め、近い将来の研究の展開を準備することを試みる。また史料収集に関しては、早期に閲覧利用可能な状況になり次第、史料保存機関などでの作業を再開し、2020年度における遅れを少しでも取り戻したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はcovid-19の蔓延による、国内での二回の緊急事態宣言、アメリカ合衆国における大規模な感染にもとづく出入国制限などにより、当初予定していた調査、国内出張、アメリカ合衆国でのワークショップ企画など、全て延期、あるいは中止となった。また史料収集のために利用を予定していた史料保存機関の多くが閉館、あるいは閲覧停止状態となるなど、全体として調査研究の遂行に多大な支障が生じた。これらについては、可能な範囲内で前年度の課題を最終の2021年度に繰り越し、当初計画に沿って調査研究を進める予定である。
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