本研究の課題は、巨大城下町江戸の近郊地帯のうち、南部に展開する六郷領(現、東京都大田区南半地区)における地帯構造の歴史的特質を、その社会=空間構造の解明を基礎に、分節的に把握しようとするものである。本研究期間の大半が、coved-19のパンディミックにあたり、史料調査やフィールドワークの多くは研究計画通りに実施することが不可能となった。このため、研究期間を1年間延長することにより、2022年度において、当初計画を補充すべく努めた。2022年度の主要な研究成果は以下のようである。①主たる研究素材である六郷領八幡塚村筏屋鈴木家文書については、すでに前年度までに、史料の再調査を実施し、精緻な目録を作成、現状記録を完了させているが、その撮影史料により、部分的ながらも、近世後期の八幡塚村における筏屋鈴木家の位置、また、鈴木家が経営を行う筏宿の存立構造に関する基礎研究を行った。②また、本研究の当初の計画にはなかった、大田区立郷土博物館所蔵の鵜ノ木村旧名主文書天明家文書が未整理状態にあることが判明し、その単位現状記録と一部、細胞現状記録による目録作成を行った。同文書は、下丸子村平川家文書(『大田区史 資料編』参照)や沼部村北川家文書(同前)とも相互に深く関連する貴重な史料群であることが窺え、その精査にむけて、調査体制を整えるなどの準備を行った。③2021年12月に都市史学会で報告した明治初年の鉄道敷設と高輪海岸などの変容をめぐる研究成果を、『都市史研究』9号(2022年10月刊)で公表し、併せて、六郷領内における鉄道敷設の動向に関する史料の所在を確認した。
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