研究課題/領域番号 |
19K00975
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
森 由紀恵 奈良女子大学, 大和・紀伊半島学研究所, 協力研究員 (70397842)
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研究分担者 |
前川 佳代 奈良女子大学, 大和・紀伊半島学研究所, 協力研究員 (70466415)
宍戸 香美 奈良女子大学, 大和・紀伊半島学研究所, 協力研究員 (00637861)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 奈良町 / 大仏殿再建記 |
研究実績の概要 |
本研究は、近世前期における奈良町北部の実態を東大寺大仏再建事業との関連によってとらえなおすことで、現在の奈良の観光・行政の中心域である奈良町北部の成立過程を解明するための基礎資料を整備することを目的とする。本年度は、下記の(1)~(3)の研究を遂行した。 (1)奈良奉行所与力玉井定時著『大仏殿再建記』を中心とした諸史料の収集・調査および地名・人名データベース構築:本研究の中心資料である『大仏殿再建記』に関する諸研究・および諸史料を収集し、文献目録を整備した。また、活字化された『大仏殿再建記』より地名・人名データを抽出し、該当箇所を原本(紙焼)にて調査した。判断に迷う地名・人名については、月に一度行われる大仏殿再建記研究会において、研究協力者とともに検討し確定した。以上の文献目録や地名・人名データ、関係史料の一部をデータ化し、本研究の基礎的条件を整えた。 (2)奈良女子大学構内遺跡出土の遺物の再調査:奈良女子大学構内遺跡のうち、中世~近世初期に関する遺構・遺物の再調査を行い、参考文献・資料の収集を行った。その結果、東大寺銘丸瓦が出土したⅠ調査地区には金属加工に関係する遺物が確認されるなど、大仏殿再建事業との関係性を考察する上での諸要素が明らかになった。 (3)『大仏殿再建記』に関する研究成果報告:『大仏殿再建記』と他史料との比較・検討の中で明らかになった研究成果を、奈良女子大学大和・紀伊半島学研究所古代学・聖地学研究センター主催の研究会「東大寺大仏殿の再建をめぐって」で報告した。テーマは「元禄再建大仏殿大虹梁の引き揚げについて」(研究分担者 宍戸香美氏)および「江戸期東大寺大仏殿再興と島津家」(研究協力者 鈴木公成氏)で、大仏殿再建事業の技術的側面だけでなく、幕藩体制特有の社会構造との関係性が示され、大仏殿再建事業の建築史・近世史における歴史的意義が明確になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルスの影響で、本年度末に予定をしていた諸機関での調査などの出張および大学構内での謝金を用いた資料整理など、予定通り進めることができなかった。また、奈良町絵図関係の調査が進展しなかったことから、GISによる奈良町北部域の分析も本格的に進めることができていない。 しかし、その分、『大仏殿再建記』の地名・人名データの抽出は予定以上に進み、これに関する周辺史料の入力作業も進展させることができた。 また、研究成果の発表は最終年度に予定していたが、本年度に研究会「東大寺大仏殿の再建をめぐって」を開催することができた。これによって、『大仏殿再建記』の歴史的意義だけでなく、大仏殿再建に関わる京都をふくめた大工組織の実態や、島津家の関与の目的・背景などが明確になり、東大寺大仏殿再建を通じて、奈良町北部域にとどまらない、奈良の歴史的転換を考察するための成果を上げることができた。 さらに、奈良女子大学構内遺跡の遺物の再調査によって、東大寺銘丸瓦が出土した地域とその周辺で金属加工関係の遺物がみられることが明確になり、東大寺と奈良町北部域の関係性を評価するための重要な方向性を見いだすことができた。 以上のことから、本研究は、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当面遠方への出張が難しい状況が継続する見込みであることから、本年度は研究拠点とその周辺で可能な研究を中心に行う。主な研究内容は下記の(1)~(3)とする。 (1)『大仏殿再建記』を中心とした刊本諸史料の収集および地名・人名データベースの構築:本研究の開始当初は刊本史料と原本調査を並行して行う予定であったが、遠方への出張の予定が立てられないことを考慮し、刊本が存在し、研究拠点の存在する奈良を中心とした調査が可能な関係史料やデジタル画像が公開されている関係資料を特定しつつ、地名・人名データベースの構築をすすめる。その際、『大仏殿再建記』は奈良県立図書情報館での紙焼などでの調査が可能であることから、優先的にすすめ、完成の時期を明確にする。また、判断に迷う地名・人名については、大仏殿再建記研究会において、適宜研究協力者の協力を得つつ判断する。 (2)奈良女子大学構内遺跡出土遺物の再調査とGISによる分析:東大寺および大仏殿再建事業との関係が注目される奈良女子大学構内遺跡のⅠ調査地区中心に遺物の再調査を行う。また、同地区と東大寺との地理的関連性を明確にするため、江戸時代の町絵図等の収集を行い、GISを用いた分析を進める。 (3)『大仏殿再建記』に関する研究成果報告:昨年度、開催された「東大寺大仏殿の再興をめぐって」の研究発表の内容の活字化をすすめる。また、(1)・(2)の研究の過程で明らかになったことを、研究拠点である奈良女子大学大和・紀伊半島学研究所古代学・聖地学研究センターにおける研究会などの場で逐次報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に予定していた、東京大学史料編纂所での『寺辺之記』諸本の調査・東京都立中央図書館での木子文庫の調査・奈良県立図書情報館での『大仏殿再建記』の調査・天理大学附属図書館での奈良町絵図関係の調査などが、新型コロナウィルスの影響で不可能となり、調査のための旅費や複写費などが使用できなかった。また、研究拠点である奈良女子大学の入構制限により、予定通り謝金が利用できなかった。 以上の次年度使用分については、関係諸機関の利用再開にあわせて逐次使用する。一方で、遠方の出張は当面見込めないこと、研究拠点である奈良女子大学を含め再び利用できなくなる状況も想定しうる。このため、デジタル画像が公開されている史料を優先した調査やリモートによる研究会の開催にそなえた機器の整備に使用する。
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