研究課題/領域番号 |
19K00976
|
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
小林 准士 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 教授 (80294354)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 日蓮宗 / 神道 / 吉田家 |
研究実績の概要 |
本年度は日蓮宗僧侶と神社につとめる神職との争論に関する調査研究を進めた。そのうち一つは18世紀半ばごろ宝暦年間に岡山城下で起こった日蓮宗寺院10か寺と岡山藩神職との争論で、岡山藩池田家文書「社寺旧記」の関係記事と日蓮宗の本山史料である本能寺文書、「日蓮宗寺院返答書」(大和文華館蔵)などの史料を分析し、争論において日蓮宗寺院が同宗の教義にもとづいた原則的な行動をとり、時には岡山藩と対立していくなどの行動をとる背景に、同時期に行われていた不受不施派の取り締まりの問題があることを確認した。 また、石見国笹ヶ谷銅山師であった堀家の所蔵文書中の「石州大田南村神職石崎志摩・同所日蓮宗妙光寺隠居日荘出入公訴一件」の解読作業を進めた。解読自体はまだ途中であるが、安永9年(1780)以降、日蓮宗の教義上の理由から同宗信徒の社参を抑止した僧侶に対し、神職が本所の京都吉田家と密接に連絡をとりながら対応したことが明らかとなった。 さらに東本願寺教団における教学論争等を扱った芹口真結子『近世仏教の教説と教化』(2019年)の刊行を受けて、東本願寺学寮講師らによる異安心に対する教誡等の分析を試みた。その結果、真宗教団においては、18世紀後半に各地で生起した異安心事件や教学論争を裁定、調停していく過程で、学寮・学林といった僧侶の修学機関を拠点とした正統教学が成立していくという見通しを得ることができ、同書の書評で論ずることにした
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初想定していた研究のうち、日蓮宗僧侶と神職との紛争である、宝暦年間の岡山城下の争論と石見国迩摩郡大田における争論については、基本史料の解読と分析を進めており予定通り進んでいる。ただし大田の争論の当事者である日蓮宗僧日荘の著作に関する検討がやや遅れているが、日荘が住職をつとめた大田の妙光寺に近世の和本が所蔵されていることが確認できた。 また、真宗寺院の文書調査に関しては、出雲国飯石郡明眼寺蔵の書籍の整理を進めており次年度には目録ができる見込みである。一方、西本願寺教団における異安心事件である三業惑乱関係の史料調査はやや遅れている。ただし東本願寺末の動向について基本的な研究文献や史料を収集することができ、西本願寺末の動向と比較すべき点などについて見通しを得ることが出来た。
|
今後の研究の推進方策 |
計画では島根県内外の寺院等へ調査に赴いて史料整理を行うことにしていたが、2020年度に関しては新型コロナウィルス流行のため現地調査が制約される状況が想定される。したがって当面はこれまでに写真撮影するなどして収集した史料の解読や分析などを優先して進めることにし、事態が収束してから現地調査を再開する。 石見国安濃郡行恒村神職と真宗寺院との争論についてはすでに収集している史料があるので解読と分析を予定通り進めることにする。また現地調査ができなくなる状況が長引くようであれば、第三年度に予定していた日蓮宗僧日宣の著作の検討を前倒しして行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
『松江市史通史編近世2』(2020年3月刊行)執筆など、他の仕事を優先的に進める必要を生じたために、現地に赴いての史料調査、整理作業を進めることができなかった。このため旅費、謝金等の支払いが予定よりも生じなかったことによる。 2020年度についても新型コロナウイルス流行にともない、旅費を使用した出張などができない恐れがあるが、事態収束後に現地調査については再開する予定である。またすでに収集した史料の解読、分析を進めるので、そのための調査研究に必要な研究書や関連史料集の購入に充てることにしたい。
|