研究課題/領域番号 |
19K00978
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森 哲也 九州大学, 人文科学研究院, 専門研究員 (50315024)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 東南院文書 / 東大寺文書 / 東大寺 / 正倉院 / 史料学 / 古文書学 / 日本史 |
研究実績の概要 |
当初計画では、令和3(2021)年度は、東南院文書の現状について、その成立過程・意義について総括する予定であった。しかし過年度からのコロナ禍の影響で、高精細デジタル画像等の再確認(東京大学史料編纂所)や、関係文書・写本の調査(東大寺図書館その他)が予定通り進捗しなかったため、研究計画の延長を申請し認められたところである。 この間、現段階までの調査・分析・整理を踏まえ、東南院文書(すべてではない)の料紙面に残る折本状の痕跡の意義について、他の古典籍の事例も参照しつつ考察を加え、以下のような見通しが得られている。すなわち、成巻された東南院文書は現在に至る間に、巻子状→折本状→巻子状の変遷を経ているが、東大寺印蔵の文書出納日記等の記載(「帖」)に注目すると、巻子状→折本状の改変は平安院政期の別当寛信による東大寺文書の整理後まもなく行われたことが判り、主として貼り継がれた文書を検索する便宜のためと考えられる。一方、折本状→巻子状の改変に関しては、天和元(1681)年の加賀前田家による史料採訪を示す『南都有之書物之覚』(『南都書籍捜索記』)によると、東大寺別当の任牒等を収められた箱に「東大寺別当官符 十二冊 一箱」と記されていたことから、当時これに収納されていた文書群(現、東南院文書第1櫃第1巻等)が折本状であったことが知られる。したがって、折本状→巻子状への変更は天和元年以降となる。この仮説にさらに検証を加え、成立過程の総括へとつなげる計画である。 また、東京大学史料編纂所の一般共同研究「観世音寺公験案の集成と研究」(過年度の繰越分)の活動の一環として、保安元(1120)年作成の観世音寺公験案(東南院文書を含む)を対象に、その成立~現在に至る歴史をまとめたが、東南院文書の現状成立過程を総括するにあたっても、これを1つのモデルとして叙述するよう考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東南院文書のデータに関しては、高精細デジタル画像により、現在の料紙面に残る痕跡について大要を把握し表として整理した上で、成果を公表し学界の共有財産化するため、説明とともに判りやすく図示する方法を模索しているところである。しかし、分析を進めてゆくうちに再確認が必要な点も見出され、また後次的に分離した文書について、写真帳や原本の調査等により、原位置を推定する計画であったが、過年度からのコロナ禍の影響をうけ、写本を含め未確認・未調査の分が生じていることによる。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題の延長が認められたことで、最終年度となる令和4(2022)年度は、これまでの成果を踏まえ、必要な調査を進めるなど遅延した部分の挽回を図りつつ、東南院文書の現状成立過程の全体像を提示し、その意義を明らかにする。具体的には、上記「研究実績の概要」の項において述べた見通し等を踏まえ、巻子状→折本状→巻子状の変遷を経たことが判る東南院文書については、まず現状を整理した上で、元来の状態から後次的に分離したと考えられる文書(寺内・寺外所在)について、原本調査や写本を参照することで、その原位置や接続関係、変遷過程を推定する。それ以外の東南院文書に関しても、現状にまとめられてゆく過程・時期を整理し、文書を取り巻く社会状況との関係に留意しながら、全体を総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染防止対策の関係で、東大寺図書館、東京大学史料編纂所等での史料調査が予定通りに実施できなかったことによる。 次年度(最終年度)に、状況を踏まえつつ、旅費等として適切に執行する予定である。
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