研究課題/領域番号 |
19K00983
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
田中 史生 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (50308318)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 渡来人 / 帰化人 / 海商 / 薩摩塔 / 東国 |
研究実績の概要 |
本研究は、古代の渡来人を「倭」「日本」への移動者と再定義し、移動の始点と終点の歴史的つながりや多様性をアジア史的視野のもとに解き明かすことで、国民史の克服を課題とする日本史学における渡来人研究の再構築を目指すものである。具体的な研究項目としては、①「帰化」「渡来」の用語の史料論的検討に基づく渡来人の定義の確定、②百済との比較からみた倭国における中国系渡来人と五経博士の特質の解明、③「帰化」の渡来人の移配政策の実態の解明、④渡来商人の活動地域の広がりの解明を設定している。 4カ年計画の初年度となる本年度は、①について大きな成果が得られた。「帰化人」「渡来人」の用語をめぐっては、『日本書紀』の「帰化」記事を史実として認めるか否かで、約半世紀の論争があるが、斉明紀以前については潤色とすべきことがほぼ実証できたと考える。また、史料の「渡来」は、「来」(マウク)を基本とする一般的な移動を示し、そこに多様な移動の契機が包含されうることも確認できた。これらの分析結果の詳細は、論文「『日本書紀』と「帰化」」(『古墳と古代国家形成期の諸問題』山川出版社、2019年10月)として公表した。②については、基礎的な史料収集と検討を終え、その成果の一部を、韓国において論文「倭王権における百済移住民の役割」(『日本の中の百済―本州・四国地域』忠清南道歴史文化研究院、2019年12月、韓国語翻訳)として公表した。③についても、律令期の「帰化人」の東国移配政策に関しては分析を終え、その一部を「律令制国家の政治・文化と渡来系移住民」(『シリーズ 古代をひらく 渡来系移住民』岩波書店、2020年3月)において論じた。④については、九州に分布する渡来商人との関連性が指摘される石塔の調査を鹿児島県と中国浙江省において実施し、これまで指摘されていない日本の薩摩塔と中国の石塔との類似点を複数確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
渡来人研究の再構築を目指す本研究において、最初の課題は、半世紀もの間論争が続く「帰化」「渡来」の用語をめぐる論争に関し、実証的な結論を得ることである。このため、研究計画においても、関連の学術論文を研究初年度に公表することとしていた。その目標を達成することができた。また、5・6世紀における中国系渡来人の様態に関する史料分析、律令期の「帰化人」の東国移配政策の実態についても、史料の収集と分析が順調に進み、その成果の一部を公表している。また渡来商人に関する調査も、日本と中国において実施し、これまで未指摘の知見を得ることができた。その成果の一部は、「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺跡群特別研究事業第2回国際検討会において口頭報告を行った(2020年1月12日)。また報告内容については、主催者の「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺跡群保存活用協議会のホームページにおいて、PDF報告書として公開されている。 さらに、移動の始点と終点の関係性に注目する本研究においては、国際環境の変化と、それと連動した対外政策・対外認識の変化が、渡来人の受容や展開に与えた影響も明らかにする必要がある。この点も新たな課題と認識し、本年度は、9世紀の『新撰姓氏録』や『類聚国史』にあらわれる、対外認識や民族観についても分析を行った(「「蕃俗」「殊俗」と日本古代国家」『金子修一先生古稀記念論文集 東アジアにおける皇帝権力と国際秩序』汲古書院、2020年月)。 以上のように、本年度は、研究計画で設定した研究項目の全てにおいて、計画以上の進展・成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
設定した研究項目「百済との比較からみた倭国における中国系渡来人と五経博士の特質の解明」のために、まず、中国で出土した中国系百済人の墓誌に着目し、百済における中国系渡来人の様態を検討する。次いで、その内容を倭国における渡来系氏族の伝承との比較検討することで、倭国における中国系渡来人の存在形態の特徴を明らかにする。 また、律令期の「帰化人」の東国移配政策に関して、「天聖令」などに注目して、中国の律令体制との比較検討を行う。加えて、渡来人の東国への移動・移住については、7世紀以前の様態も調査・分析し、渡来人と東国の関係の通史的把握を目指す。 渡来商人の活動地域の検討については、研究計画に基づき、引き続き史資料収集のために中国調査を行う必要がある。しかし、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大にともない、今年度はこうした海外での調査が困難となることも予測される。その場合、九州を中心に国内調査を優先して行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、当初計画していた当該年度の国内・海外調査が、ともに他の出張と日程が重なり、その用務終了後、引き続き科研の現地調査を行ったことで、旅費が予算よりも大きく圧縮されたことによる。 この次年度使用額の使用計画としては、これを設備備品費、及び外国旅費の一部に組み入れることとする。理由は、当初計画において次年度はノートパソコン購入費を30万円としていたが、当該年度の調査で画像・動画資料が多く収集され、今後もこうした大容量データの増加が見込まれるため、これらを効率的に管理・整理する機器環境の整備が必要となったこと、及び、当該年度の調査で、当初計画では予定していなかった新たな中国調査が必要となったことによる。
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