研究課題/領域番号 |
19K00985
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
松田 京子 南山大学, 人文学部, 教授 (20283707)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 台湾先住民 / 蕃務本署 / 「内地」観光 / 高等女学校 |
研究実績の概要 |
本研究は、「植民地の日常」の中に働く微細な権力作用や、植民地の日常生活の「場」におけるヘゲモニーのあり方について、特に植民地住民の階層性に注意を払いながら分析することを通じて、植民地統治が植民地社会および植民地住民に与えた影響の深度を考察するものである。 具体的には2022年度は台湾先住民を対象とした「内地」観光施策に、2021年度に引き続き焦点をあて、特に1911年に実施された第二回、第三回「内地」観光を対象に考察した。そして「内地」観光に参加した先住民集落の有力者(「勢力者」「先覚者」)の体験や見聞が、故郷の集落をはじめとした先住民社会の「日常」にどのような影響を与えたのかを具体的な事例にそくして明らかにした。また1909年10月に台湾先住民政策の専従機関として蕃務本署が置かれており、この体制のもとで進められた「討伐・服従」化施策と第二回、第三回「内地」観光との関連を、特に「内地」観光参加者に焦点をあてて解明し、その成果を論文「蕃務本署体制の確立と台湾原住民の「内地」観光ー一九一一年の第二回・第三回「内地」観光を中心にー」として公刊した。 さらに2022年度は、高等女学校で教育を受けた一人の漢民族の女性の経験に焦点をあて、植民地統治下での「日常」の経験と、戦後の台湾社会での「政治受難」の経験が、どのように関連するのかという点も含めて考察し、その成果を2022年7月に京都大学人文科学研究所で開催された京都大学人文研アカデミー「東アジアの脱植民地化とジェンダー秩序」にて発表した。さらに研究論文として公刊することを目指し、現在、執筆を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、2022年度は台湾先住民エリート層の経験に焦点をあてて考察を行う予定であり、その一部は「研究実績の概要」で述べたように、1911年の「内地」観光施策との関連で考察しその成果を論文として公刊することができた。ただし特に「先覚者」と呼ばれた青年エリート層の経験については、1920年代後半から1930年代を中心にさらに考察する必要があり、その点は2023年度に持ち越すこととなった。 また当初の計画では、2020年度・2021年度は台湾の漢民族系住民の「日常」に関する植民地統治政策の影響についてを具体的な研究テーマとして研究を進める予定であったが、コロナウイルス感染症の影響で2020年度・2021年度は台湾への調査旅行が実施できず、この研究テーマについて特に研究が遅れている。2022年度はその一部を口頭発表することができたが、論文としての公刊については、2023年度に持ち越すこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、2022年度に引き続き、台湾先住民のエリート層に焦点をあて、特に1920年代後半から1930年代を中心に、彼ら・彼女らの具体的な経験から植民地統治が植民地社会および植民地住民に与えた影響の深度を考察していく。当該期の台湾先住民に関する資料について、その多くはすでに収集しているが、当該期に発行されていた雑誌の中の関連記事を中心に、補充調査・収集等を行う必要がある。 また台湾の漢民族系住民の経験については、すでに高等女学校で教育を受けた女性エリートに焦点をあてて考察を進めているが、さらに台湾の街庄における諸動向との関連で、より幅広い層の漢民族系住民の経験も対象に考察することを目指している。そのため「台北州海山郡鶯歌庄」の役場文書「台北州档案」(台湾・新北市図書館所蔵)等の調査が重要であると考えている。また漢民族系住民の青年エリート層の中には、植民地であった朝鮮に留学等を目的として渡るという流れもあったため、そのような経験が「日常」にどのような影響を与えたのかを探るため、韓国での資料調査が必要であると考えている。 2020年度からコロナウイルス感染症の影響で、台湾への調査旅行が実施できない時期が長く続いたが、現時点では台湾への渡航は2019年までの状況とほぼ同様となっているため、2023年度は台湾への調査旅行をできる限り多く実施し、上記で述べたような研究遂行に必要な資料の補充調査を速やかに進め、さらにできれば早期に韓国への資料調査旅行も実施し、個別の研究テーマに関する成果を論文として公刊していきたい。 あわせて本研究課題全体についてのまとめを行い、将来的には単著として出版できるよう準備を進める予定である。 また2023年度は最終年度であるため、本研究課題に関する総括的な意味合いもこめて、国際シンポジウムの開催も検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響で、本研究課題の遂行にとって重要な台湾への調査旅行が2020年度、2021年度と実施することができず、2022年度は複数回の台湾調査旅行の実施を検討していたが、2022年の夏はまだ台湾の渡航後の行動規制が厳しかったため、2022年度の台湾調査旅行は、規制が緩和された後の12月に実施した1回のみとなった。そのため旅費を中心に次年度使用額が生じた。 2023年度は台湾への調査旅行を複数回実施し、これまでやや遅れている資料調査・収集および関連図書購入を集中して行う予定である。また韓国への資料調査旅行も計画している。さらに国内での資料調査旅行、学会での研究発表旅行も積極的に実施する予定であるため、旅費として主に使用する計画を立てている。 また2023年度後半には本研究課題に関する国際シンポジウムの開催も検討している。
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