研究課題/領域番号 |
19K00985
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
松田 京子 南山大学, 人文学部, 教授 (20283707)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 台湾先住民 / 「内地」観光 / 第二次五箇年計画理蕃事業 / 「能高団」 / 女性の経験 |
研究実績の概要 |
本研究は、「植民地の日常」の中に働く微細な権力作用や、植民地の日常生活の「場」におけるヘゲモニーのあり方を分析することを通じて、植民地統治が植民地社会および植民地住民に与えた影響の深度を考察するものである。 このような目的のもと2023年度は、当時「北蕃」と呼ばれた「タイヤル族」に参加者を限定して実施された1912年の第四回、第五回「内地」観光を対象に考察した。当該期は第二次五箇年計画理蕃事業として、この「タイヤル族」に対する「討伐」服従化施策が断行されていた時期であり、このような政策方針と一見すると「教化」策である「内地」観光がどのように関連するのかを、「内地」観光の推進者であった蕃務総長大津麟平と台湾総督佐久間左馬太との先住民政策をめぐる意見の相違が与えた影響も含めて検討した。さらに「内地」観光の見聞を先住民社会に広める目的で、各地方庁によって実施された「巡回講和」の実施状況から、「内地」観光が先住民社会の「日常」に与えた影響について考察し、その成果を第26回現代台湾研究学術討論会で発表した。その後、当該テーマについては、さらに補足的な考察を行った上で論文としてまとめることができたため、現在、公刊の機会を探っているところである。 また台湾先住民野球チーム「能高団」の1925年の「内地」遠征旅行に焦点をあてて、台湾先住民の「内地」での経験および野球試合を通じての「内地」の学生との交流のあり方を考察し、その成果を「名古屋アジア散歩」第2回シンポジウムで発表した。 さらに漢民族の女性の経験に焦点をあて、植民地統治期の経験が、戦後の台湾社会での経験にどのように関連するのかを、人的ネットワークや、政治的活動、日常生活など様々な位相にわたり考察し、その成果を同時代史学会2023年度大会にて発表した。これらのテーマについては、研究論文として公刊することを目指し、現在、執筆を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、2023年度は1920年代前半ら1930年代後半の台湾において、植民地支配が植民地住民に与えた影響、特に日常生活というレベルに及ぶ影響の全体像を考察する予定であったが、2023年度は「研究実績の概要」で述べたように、1910年代から1920年代にかけての台湾先住民の経験、1930年代から戦後にかけての漢民族系住民の経験に即した具体的なテーマに関する研究を進めることはできたが、それらの成果を集約しての全体像の考察については、2024年度に持ち越すこととなった。 とりわけコロナウイルス感染症の影響で2020年度・2021年度は台湾への調査旅行が実施できず、当初2020年度・2021年度に実施する予定であった漢民族系住民に焦点をあてた研究が遅れているため、2022年度に引き続き、2023年度についても考察を進め、2023年度も「研究実績の概要」で述べたようにその成果に関する口頭発表を行うことができたが、論文執筆は2024年度に持ち越すこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、「研究実績の概要」でも述べたように、2023年度に研究成果を口頭発表した台湾先住民の経験、漢民族女性の経験に関するテーマについて、研究論文として公刊することを目指して、適宜、補充調査を行いながら、論文執筆を進めていく。 また本研究課題全体を完成させるため、1920年代前半から1930年代後半の台湾において、植民地支配が植民地住民に与えた影響、特に日常生活というレベルに及ぶ影響の全体像について、これまでの個別の具体的なテーマの探求で得た成果を集約し、さらに考察を加えて、その結果を学術論文として公刊することを目指す。 そのため、国立国会図書館への資料調査など日本国内での補充調査を行うとともに、夏に聞きとり調査も含めた補充調査のため、台湾への調査旅行を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響で、本研究課題の遂行にとって重要な台湾への調査旅行が2020年度、2021年度と実施することができず、2022年度も夏はまだ台湾の渡航後の行動規制が厳しかったため当初、予定していた複数回の台湾調査旅行はできず、規制が緩和された後の12月に実施した1回のみとなった。2023年度は台湾への調査旅行を複数回実施し、資料調査・収集および関連図書購入を行うことができたが、日本国内の資料調査が十分実施できなかったことなどもあり、旅費を中心に次年度使用額が生じた。 2024年度は資料の補充調査のため国内の調査旅行、聞き取りを含めた補充調査のため夏期の台湾調査旅行を実施する予定である。そのため旅費として主に使用する計画を立てている。
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