研究課題/領域番号 |
19K00987
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研究機関 | 大阪産業大学 |
研究代表者 |
加藤 道也 大阪産業大学, 経済学部, 教授 (80389973)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 植民地官僚 / 植民地統治 / イギリス帝国 / 帝国論 |
研究実績の概要 |
初年度である平成31年度(令和元年度)においては、植民地官僚だけでなく戦前期の官僚全体の主要な経歴を網羅した秦郁彦編『日本官僚制総合事典』や国会図書館がデジタル化した『官報』を用いて、台湾総督府、朝鮮総督府、関東都督府、樺太庁、南洋庁に勤務した官僚全体の経歴を概観すると共に、関連資料の収集・分析に努めた。大まかな傾向としては、内地から赴任した官僚が現地住民が多数を占める中で「外地行政」を比較的長期間にわたって担当する地域と、内地からの移民が大多数で、ほとんど内地の府県同様の行政が行われた地域に分かれると言えると思われる。 また、当時の植民地官僚に影響を及ぼしたイギリスを中心とする植民論に関する資料・文献の検討を行った。当時の日本の植民地官僚は、主としてイギリス植民省高官ルーカスやオックスフォード大学帝国史講座教授エジャートンなどの主要な論者の影響を受けていたことが窺われる。彼らはおおむねイギリスによる植民地統治に肯定的であり、その著作物には、「優れた文化」を普及させることが「イギリス人の使命」と考える傾向が顕著であったが、日本の植民地官僚は、この枠組みを「アジア主義」を通して日本に適用しようとしたのではないか、との仮説を得ることができた。 以上の研究成果については、論文としては、加藤道也「植民地官僚のイギリス帝国認識-吉村源太郎の『南阿連邦論』を手掛かりとして-」『大阪産業大学経済論集』第21巻第1号(2019年10月)、および、加藤道也「植民地官僚のイギリス帝国認識-吉村源太郎」『大阪産業大学論集』第21巻第2号・第3号合併号(近日刊行予定、2019年12月18日掲載決定)、の2論文を執筆、学会報告としては、加藤道也「植民地官僚のアイルランド問題認識」(於日本アイルランド協会第27回アイルランド研究年次大会、2019年12月21日)、を行い公表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、1年目に様々な植民地関連機関における植民地官僚の人事における集団的な経歴傾向を把握するマクロ的分析、2年目に様々な植民地関連機関に勤務した代表的な官僚の報告書や著作の分析を通じた具体的な実務内容や思想傾向のミクロ的分析、3年目にマクロ・ミクロ量分析の成果を統合して植民地・影響圏統治の実態と組織論的類型化・一般化を行う、という計画を立てている。もちろんそれらの分析は相互参照的に適宜行っていくことになるが、本年度においては、分析の基礎となる文献の収集・検討をほぼ当初の研究計画に沿って行うことができた、と思われるためである。また、計画の進展状況に関しても、2本の論文執筆と1件の学会発表を行うことを通じて、本年度の成果を適宜発表することができた。 具体的な内容としては、日本の植民地・影響圏統治においては、当初参照すべき経験が少なかったため、イギリスを中心とする欧米諸国の経験が大いに参照されたこと、その中でも、イギリス植民地統治の経験が実務的な先行事例として影響を及ぼしていたのではないか、ということが判明した。さらに興味深いことは、植民地官僚は欧米諸国の経験をそのまま受容したのではなく、日本の実情と必要に合わせて選択的に植民地統治技術と思想を受容したということである。このことは、イギリス帝国などとは異なり、日本の植民地・影響圏がアジア地域に集中していたことが関係していると思われるが、イギリスなどの欧米諸国とも一定の緊張関係がある中で、日本の独自性を生み出す必要を彼らが認識していたこととも関連していると思われる。こうした全体的傾向を概観することで、個別の植民地官僚の経歴や思想傾向の分析にも大いに有益な成果を得られたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に沿って、これまでに得られた成果の上に、代表的な植民地官僚の経歴や思想傾向の分析を行っていきたいと考えている。コロナ禍による情勢が今後どのように展開していくかについては不明な点も多いが、文献資料の収集・分析を中心に行っていくという本研究の基本方針は維持していく。海外における資料調査については困難な状況が続くと思われるが、デジタル化された資料等の利用などを最大限活用しながら、研究計画に大きな支障をきたさないよう注意を払っていきたいと考えている。 研究の具体的な内容については、現在のところ具体的な植民地官僚の経歴や思想傾向の分析については、比較的現地の裁量が強かったと思われる台湾総督府、朝鮮総督府、関東都督府については、代表的な植民地官僚の報告書や著作、講演録などを通じた思想的傾向の把握が順調に進んでいると考えるが、さらにより多くの植民地官僚について、同様の研究を積み重ねていきたいと考えている。また、比較的内地の府県と同様の統治が行われていたのではないかと考えられる樺太庁や南洋庁などに関しては、代表的な官僚の報告書や著作などの収集・検討を本格化していきたい。成果については、今年度同様、適宜公表していく予定である。 また、組織論として植民地関連機関の特徴をどのようにとらえていくのか、については、さらなる文献の収集と検討を進めていく必要があると考えている。この点においては、数的分析と質的分析をどのように調和させていくかが課題となると考えているが、様々な時代における組織に関する先行研究などを参照しながら、適切な枠組みの構築を追求していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に本年度の研究の進展状況を踏まえた資料調査出張を計画していたが、世界的なパンデミックの影響により資料調査出張が困難となったため、次年度以降に繰り越した。 現状では、出張に関する環境はいまだ多くの制約が存在していると考えるが、今年度も多くの割合を占める文献・資料購入費と合わせて、再度最適な研究の進め方を検討し、本研究の効果的な遂行のために使用したい。
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