研究課題/領域番号 |
19K00992
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
堀田 幸義 宮城教育大学, 大学院教育学研究科高度教職実践専攻, 教授 (20436182)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 在郷居住 / 献金郷士 / 金上侍 |
研究実績の概要 |
仙台藩では17世紀~18世紀前半にかけて士庶(=武士と庶民)の身分的・社会的な区別が明確になったが、18世紀後半以降、日常的な士庶混淆状況が見られるようになり、身分秩序の紊乱と武士の威厳の低下現象が惹起されてしまう。本研究は、こうした士庶混淆状況が同藩固有の問題なのかどうかを列島規模で確認し、百姓・町人らが武士を見る眼差しの変化について明らかにするため、仙台藩に見られたような士庶混淆状況と「侍の威」の低下現象を全国規模で確認し、その概要把握を行うとともに(課題①)、できるだけ多くの藩について個別具体的な検討を行い、仙台藩と相互に比較研究することを最終的な課題(課題②)としており、また、仙台藩における士庶混淆状況をもたらした歴史的要因についての全容解明も課題の一つ(課題③)としている。5年目にあたる令和5年度については、専ら課題①に関する作業を行った。その結果、以下のような成果を得ることができた。 まず、仙台藩における士庶混淆状況は、身分的表象に関する混淆、日常生活に関する混淆、居住地に関する混淆といった3つのレベルで進行していくことになるが、なかでも居住地に関する混淆は、兵農分離の社会であるとされる近世社会にあって身分秩序を狂わせる大きな要因の一つになっている。全国諸藩の状況を探ったところ、藩財政の悪化や藩士家計の窮乏化を背景に、藩士たちの在郷居住を認める藩は仙台藩以外にも複数確認することができ、そもそも家臣在郷制をとった藩や武士たちの土着政策を実施した藩が20を超えることがわかった。身分的表象に関する混淆については、藩が、献金と引き換えに百姓・町人らに対して苗字帯刀などの格式や武士身分そのものを与えたことが大きく関係しているが、こうした行為も仙台藩以外の複数の藩で確認することができ、特に18世紀後半以降における「献金郷士」・「金上侍」の広がりを見ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和5年度に実施した本研究では、まずは、令和4年度から継続して研究を続けていた仙台藩が直臣や陪臣たちに対して行った百姓地への居住規制について跡づける作業を終え、その成果を論文化するつもりであった。前述した、身分的表象に関する混淆、日常生活に関する混淆、居住地に関する混淆といった3つの問題のうち、仙台藩に関しては藩士たちの居住地をめぐる状況についてだけ未解明な部分が多く、これを考究することにより仙台藩を対象とする研究(本研究の課題③)に区切りをつけるつもりでいた。ところが、実際に論文を執筆してみると、居住規制が出された時期の藩士たちの土地所有に関する新たな調査や分析作業を行う必要が生じてしまい、執筆作業を中止せざるを得なかった。 一方で、本研究の最終年度にあたる令和5年度には、コロナ禍の影響もあり過去4年間で見るべき成果を上げることができなかった課題①に関しても研究を進め、その成果を論文にまとめる予定であったが、研究以外の業務に従事する時間が増えてしまったこともあり、諸藩の状況を十分に調査研究することができず得られた成果を論文化するまでに至らなかった。 以上のような理由から「(4)遅れている。」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を開始した当初、仙台藩における士庶混淆状況のなかで「居住地に関する混淆」という点については未解明な部分が多かった。令和元年度・同2年度の研究を通じて、同藩における「居住地に関する混淆」をもたらした原因の一つである地方知行制の広まりが如何なる歴史的事情のもとでもたらされたものなのか藩政初期にまで遡って明らかにし、令和3年度・同4年度には、実際に「居住地に関する混淆」が進行していく藩政中後期を対象に、「村に住み続ける武士」たちが生み出されてくる歴史的な経緯について通時的に明らかにすることができた。しかるに、令和4年度・同5年度に実施した研究、すなわち、直臣や陪臣たちの百姓地への居住を規制する仙台藩の百姓地居住規制の展開に関する研究成果を論文化できておらず、令和6年度は、まずは、こうした問題についての更なる調査や分析作業を行っていき、その成果を論文化していくつもりである。そして、仙台藩を対象とする研究(課題③)に区切りをつけたい。 また、課題①については、(a)当該地域における武士身分について把握し、(b)身分的表象に関する混淆、日常生活に関する混淆、居住地に関する混淆といった3つのレベルでの混淆状況について探り、(c)武士に対する百姓・町人らの無礼行為の具体的な内容と無礼禁止令のような藩の法令を探る必要があるが、この点については、令和5年度に実施した作業によって、仙台藩の様子と比較検討できるような藩が全国に複数存在していることを確認済みであり、そうした藩を対象に、先の(a)~(c)についても成果の上げやすい部分から着手するなど、効率的に作業を進めたいと考えている。 なお、課題②については、個別藩の事情に深く踏み込んだ分析が必要となることから、当面は課題①・③についての作業を優先する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
仙台藩に見られたような士庶混淆状況と「侍の威」の低下現象を全国規模で確認し、その概要把握を行う(課題①)ためには、全国諸藩の法令集や御用留などの網羅的な調査を行う必要があり、時間的ロスを省くために刊行されている史料集を新しく購入する必要があるが、研究以外の業務の多忙化による作業時間の圧縮の必要性や仙台藩を対象とする研究の継続調査の必要性が生じたことから、すでに入手済みの史料のチェックで手一杯になってしまい、全国の自治体史や高額な史料集を購入しなかったこと、他藩の事例を探るための遠隔地への史料調査に行くことができなかったことが大きな理由である。 令和6年度は本研究の延長年度でもあり、できるだけ効率的に研究成果を上げる必要があることから、まずは、専門書や刊行史料の購入費にあてる予定である。そのうえで、費用対効果と必要性を勘案しながら他府県への史料調査を実施するかどうか検討していくつもりである。
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