ポルトガル国立古典美術館所蔵の銅造菩薩半跏像について現地調査を実施するとともに写真撮影を行った。また、ベルギーのルーヴェン大学文学部と國學院大学の国際研究交流会を主催して、「ジョルジュ・エンシェルの日本コレクション」と題する報告を行い、この仏像は、迎賓館赤坂離宮の外装・内装に関わったジョルジュ・エンシェルのコレクションの1つであり、彼の没後、1919年にパリで行われたコレクションの競売においてカルースト・グルベンキアンに買得されたこと、当時の売立目録には、日本の関西地方で作られた天平仏の特徴をもつ“Miroku(ミロク)”として、写真付きで紹介されていることなど、これまでに判明した事実を公表した。 本像は、頭頂部から足指まで全体にわたり修復が加えられている。補修の粗さなどから古代仏ではない可能性をなお残す。これに関連して、19世紀後半以降のヨーロッパのジャポニスムを背景とする仏像の流出状況、および関連資料を把握すべく、その一環としてドイツ・フランスの美術館所蔵の日本・中国の仏像、日本美術に関する調査を行った。 他方、古代日本・朝鮮の仏教関連の金石文の判読・分析作業を推進し、データベースの構築を期して月1回のペースで検討会を開催して、先行研究の評価や史資料の内容理解に努めた。昨年度につづき、韓国清州国立博物館所蔵の癸酉銘全氏阿弥陀仏碑像、己丑年銘阿弥陀仏碑像、弥勒菩薩半跏思惟碑像を調査して、碑面に刻まれた文字の解読を進めたほか、弥勒菩薩を浮彫するとみられる蓮華寺所蔵戊寅銘仏碑像の像容を新たに調査した。 本研究では、新出資料をふくむ美術資料と金石文・文献資料の総合的な研究、現地調査によって、古代日本・朝鮮の弥勒信仰の展開、および菩薩半跏像の尊格、弥勒菩薩の可能性を追究したが、結論として、半跏思惟の姿で弥勒菩薩が表現された複数の事例を確認できたことは、本研究の重要な成果である。
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