研究課題/領域番号 |
19K01008
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
長友 朋子 (中村朋子) 立命館大学, 文学部, 教授 (50399127)
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研究分担者 |
中村 大介 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (40403480)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 考古学 / 古墳時代 / 窯技術 / 土器生産の変化 / 東アジア / 日本列島 / 朝鮮半島 |
研究実績の概要 |
2019年2月の論考「東アジアにおける窯の系譜」(『立命館文学』662)において、中国から朝鮮半島を経て日本列島へいたる窯の系譜を、窯型式と焼成温度の相関性という視点から整理した。その際、単系的に窯が伝播するのではなく、中国の異なる地域・型式の窯が朝鮮半島の窯に数度にわたり影響を与え、朝鮮半島の窯に地域色が生まれることを示した。そして、朝鮮半島における地域差が、日本列島に出現する窯の構造に反映されていることを述べた。 1.最新の韓国窯集成表の作成:上記の見通しをふまえつつ、従来集成された窯に加え、現在までに発掘調査で明らかにされた韓国の窯を網羅するため、窯の集成リストを作成した。 2、伽耶窯の見学と初期須恵器調査(延期):12月の伽耶での発表の機会に、2019年度に発掘調査した窯出土土器の調査を実施した。2月下旬には、初期須恵器の調査を計画していたが、新型コロナウイルス拡散の影響で、韓国の共同研究者らが来日できなくなり、調査は延期せざるをえなくなった。新型コロナウイルスの終息した後に、調査を再開したい。 3.研究成果の公開:発表依頼された研究会や学会などで、窯の系譜に関する研究を発表・公開し、韓国や日本の研究者からも貴重な意見を得た。 4、シンポジウム開催:中国、韓国、日本の土器窯と瓦窯の接点について、2月22日に窯跡研究会と共催で『土器窯と瓦窯の接点」と題したシンポジウムをおこなった。中国の研究者は来日できなかったものの代読と発表要旨による発表をおこない、韓国の研究者らを交え、中国、モンゴル、韓国、日本の窯の発表を通じて東アジアにおける窯の知見を深めた。各地域の土器窯から瓦窯への変化の様相が多様な角度から論じられ、1回のシンポジウムだけでは論じきれない内容だったが、改めて今後の課題点が浮き彫りになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、A 東アジアにおける窯系統の区分と変遷、B 漢帝国協会の窯の展開と周辺地域への生産技術拡散、C 周辺地域での窯導入による土器生産の変革と政体の関与の3つの課題解明を目的としており、初年度の2019年度は以下のように研究が進展したので、おおむね順調に進展しているといえる。 1.窯リスト作成と調査の実施:東アジアの窯の考察で要となる朝鮮半島の窯リストの作成をいったん完成させ、研究を推進する基盤をつくった。また、近年発掘事例が増加している伽耶の窯出土土器を調査し、伽耶のワークショップにて最新の調査研究成果に触れた。これらは、研究AやBの推進に必要不可欠な作業であり、これを実施できた。 2.土器窯の系統の区分と変遷:土器の焼成温度と窯構造が相関することを明らかにして、東アジアにおける窯の系統と変遷について見通しを示した。研究会などで発表するなかでさらに論を補強し目的Aの研究を進めた。 3.シンポジウムの開催:窯研究会とシンポジウムを共催し、実験をふまえた窯構造の理解や、中国、モンゴル、朝鮮半島の窯の最新の研究に触れることで、目的Bの生産技術拡散や研究Cの土器生産変革と政体関与を考察するうえで重要な最新の研究成果に触れ、今後の研究の基礎となった。 4.窯に関する英書刊行の準備:以前より計画していた英書刊行について、出版社との話をすすめた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は新型コロナウイルス拡散の影響が非常に強いため、移動を伴う研究会の実施や海外での調査、韓国の研究協力者との日本での調査が困難な状況である。そこで、当初予定を変更し、モンゴルの窯調査や新羅地域の調査は、今年度行わないこととした。これに代わり、以下の通り研究を推進する。 1.朝鮮半島の窯の集成表の完成:昨年度集成した韓国の窯リストの報告書を収集し、図表を含む窯の集成を完成させ、公開にむけた準備をおこないたい。その際、引き続きインターネットや共同研究者を通じて最新の研究や調査成果を引き続き把握できるように努める。 2.朝鮮半島の窯の地域性と変遷:この集成を基礎にして、朝鮮半島の窯の地域性と変遷についての論考をまとめる。これにより、日本列島への窯伝播をより明確に論じることができるようになる。 3.東アジアにおける窯に関する英書作成:窯の研究を編集者としてまとめる作業をすすめており、各執筆者から提出された原稿の編集作業を順次おこなっていく。この本では、中国、モンゴル、韓国、日本の窯について、科学分析、窯構造、生産体制など多様な観点から論じられる予定であり、本研究の成果もこれで公表する予定である。今年度は、出版社への送り査読までを実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2月下旬に研究協力者2名と補助者2名を韓国から招聘し、奈良県新堂遺跡にて調査を実施する予定だったが、新型コロナウイルス拡大の影響で調査を中止せざるをえなくなった。そのため、予定していた調査費が使用できなくなり、翌年度へ繰り越すことになった。2020年度はさらに新型コロナウイルス拡大の影響が強く、また韓国から日本への渡航制限があるため、調査の実施は困難である。そこで、窯データを報告書から集成し1冊の本としてまとめる作業をすすめることにした。翌年度の助成金と合わせ、集成作業のためのアルバイト費用(約11万円)と集成本の印刷費(約15万円)として使用する計画である。
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