研究課題/領域番号 |
19K01019
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森平 雅彦 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (50345245)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 朝鮮史 / 環境史 / 内水面環境 |
研究実績の概要 |
当初計画に沿って朝鮮時代に関する調査を進めた。具体的には以下の3テーマについて分析し、淡水魚資源の利用状況をマクロからミクロまでの範囲で把握した。 (1)地理誌・博物誌にもとづいて内水面の採捕対象魚種の全国的状況を調査した。特に大きな収穫だったのは、近世の学者徐有榘の博物誌によって、各地で商品流通していた魚種を把握し、地理誌所載の主要種以外の採捕・食用対象魚を多数検出できたことである。 (2)15世紀の地理誌『慶尚道続撰地理誌』の分析を通じて、南東部の河川における魚梁(ヤナ)の設置状況と、そこでの採捕対象種を網羅的に把握し、その地理的特徴を明らかにした。また個人の日記・文集を利用して、魚梁をめぐり地域社会で生じていた諸問題を分析した。魚梁は構造的に河道を遮断するため、増水時に越水を引き起こして近隣の住居や農地に水害をもたらし、あるいは船舶の河川交通を妨げることがあった。また遡上ないし降下する魚群を効率的に大量採捕するため、その経済性に注目した官衙が魚梁を独占的に運用し、地域住民に禁漁を強いることがあった。そのため地域住民との間には漁撈資源をめぐる対立が発生し、河岸に亭舎などを築いて行われていた在地士族層の文化・社会活動を妨害して、魚梁撤去運動が展開されることもあった。 (3)17世紀前半の日記『渓巌日録』を分析して洛東江上流部の在地士族層における淡水魚をめぐる生活の様相を明らかにした。当地の士族たちは夏季を中心に淡水魚を常食したとみられるが、とりわけ士族たちが地域エリートとして相互の紐帯を確認する集団交流の場で魚の採捕と共食が盛んに実践された。採捕された淡水魚はその場で食用されるだけではなく、贈答品や祖先祭祀での祭需としても利用された。官衙との関係では、王室への献上アユの調達や、漁撈資源の独占を狙う官衙の禁漁措置などに苦慮する姿が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の所期の目的は、内水面水産資源の全国的な利用状況を確認することであった。しかしそれが順当に進捗したことで、中規模地域・小規模地域の各レベルのサンプル調査を実施することも可能となり、それぞれ一定の結論をみるにいたることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度においては、小規模地域単位の地理誌や個人記録にもとづき、朝鮮時代の内水面水産資源の採捕状況に関するミクロ・レベルのサンプル収集を進める。特に漁法の体系的な把握に留意したい。また近代に関する調査準備も、調査対象資料のリストアップ、入手といった形で徐々に進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末(3月26ー27日)に関東地方において朝鮮半島との比較研究を目的とした現地資料調査のための出張を予定していたが、同地域における新型肺炎の感染拡大をうけてキャンセルしたため。 当該金額分については、新型肺炎感染の収束後、適切な時期に同趣旨の調査出張を実施する。
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