オスマン帝国の首都イスタンブルは、宗教・宗派の面で多様な人々を内包したことを特徴のひとつとしていた。そのイスタンブルにおいて19世紀には、近代国家化の進展と並行して、様々な都市改革が進められることになる。本研究は、こうした都市改革に焦点をあて、住民の文化的多様性との関連で改革がどのような方向性を持ったのかを検討するものである。これにより、従来、制度史的な観点から上からの改革として扱われる傾向にあったイスタンブルの都市改革を、都市社会史の観点をふまえて捉え直すこと、さらに近世から近代への移行期においてオスマン帝国下の多文化社会がどのように機能し、またそのあり方がどのように変化したのかを明らかにすることを本研究は目的として設定してきた。 こうした目的を達成すべく、本研究では主に、イスタンブルの大統領府文書館に所蔵されるオスマン帝国の文書史料やトルコやアルメニアの図書館に所蔵されるアルメニア語定期刊行物などを調査し、19世紀の都市改革の過程で生じた帝国政府と非ムスリムとのあいだでの交渉過程を検討してきた。とくに、都市の末端の行政単位に関わるムフタル制の導入と運用や、市域の拡大過程で生じた墓地の閉鎖や移転、接収をめぐる諸問題の研究に取り組んできた。研究の最終年度にあたる2022年度においては、その主たる成果として、中東研究の分野で国際的に権威のある学術雑誌International Journal of Middle East Studiesに投稿論文を掲載させるにいたった。
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