研究課題/領域番号 |
19K01023
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
谷口 満 東北学院大学, 文学部, 教授 (10113672)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 海塩地区塩神廟 / 井塩地区塩神廟 / 池塩地区塩神廟 / 女性塩神 / 男性塩神 / 揚州塩宗廟 / 泰州管王廟 / 塩政神管仲 |
研究実績の概要 |
中国各地に残存する塩神廟について、その所在地・設置事情・祠廟組織及びその盛衰についての資料を収集して、中国塩神廟の資料データベースを構築するのが第一の目的であり、本年度はもっぱら各地の地方志と各産塩地の塩法志によって関連資料を抽出し、海塩地区・井塩地区・池塩地区ごとに基本情報を収集した。その結果、海塩地区では塩業の創業者・塩政の管理者などの男性神が祭祀されることが多く、これに対して井塩地区では塩源の発見者などの女性神が祭祀されることが多いこと、池塩地区では官立の塩神と一般庶民が信仰する塩神の共存情況がみられることなど、貴重な知見をうることができた。 これらの資料データを駆使して、塩神信仰と他の宗教信仰の習合、塩神廟組織の管理運営情況に見られる官員と一般庶民の関係などを考察するのが第二の目的であるが、これに対しては、江蘇省揚州塩宗廟・泰州管王廟などの現地での調査資料も導入して、塩神と道教神の習合がしばしば生じていること、塩業労働者などが信仰する塩神廟と官員=地方政権や有力塩商人が設立した塩神廟では、同じ神格を祀りながらも、管理運営にたずさわる成員の身分においてそもそも大きな差があったことなど、貴重な事情を明かにしえている。ことに、江蘇省泰州で現地調査を実施して、当地には、塩政神である管仲を祭神として塩業労働者などが設立した城外盛り場の塩神廟と、同じく管仲を祭神として官員や有力商人が設立した城内庭園の塩神廟が、それぞれ独立的に、いわば没交渉的に併存していたという事実を確認することができたのは大きな収穫であった。 神像・祠廟建築などの写真・画像を収集・整理することも一つの目的であり、これについては上記揚州塩宗廟・泰州管王廟で神像・祠廟建築を直接撮影しえたほかに、揚州塩運文化センター・泰州塩税博物館などで、関連する多くの写真・画像を複写することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、採択以前のおよそ10年間における中国塩神廟現地調査の成果を受けて開始されたものであり、初年度から比較的順調に活動を推進していたが、年明けに新型コロナウイルスの拡散・拡大という思わぬ事態が発生し、3月に計画していた四川省自貢市・塩源県での現地調査が中止となってしまった。塩文化研究のメッカである自貢市の塩業歴史博物館・中国塩文化研究センターと少数民族女性神で有名な塩源県塩神廟での現地調査が不可能となってしまったのであるから、年度計画の達成度ということになれば、6割程度といわざるをえない。(2)おおむね順調に進展している、と自己評価したものの、実情としては、そのおおむねとは三分の二程度であるというのが正直なところである。 四川省での調査については、成都市文物考古研究所や自貢市塩業歴史博物館の研究者とすでに連携ずみであり、またあわせて雲南省での調査についても、雲南大学の研究者とすでに連携ずみである。次年度なるべく早い段階で、四川省南部・雲南省西部の塩神廟を現地調査して、本年度成果の不足分を補いたいと考えている。 なお現地調査がかなわなかった四川省自貢市・塩源県の塩神廟関連情報については、写真・塩神廟設置説明文など、いくつかの貴重な情報が当地の研究者から寄せられてきており、現地調査によって収集するはずであった資料を、少数ではあるがいながらにして入手しえている。現地調査に先んじて関連資料を実見することができるのであるから、次年度の現地調査はより有効なより充実したものとなるはずである。
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今後の研究の推進方策 |
現地調査・文献資料・口承伝承などによって中国塩神廟の資料データベースを構築し、それに基づいて中国塩神信仰史上の諸問題を研究するという本研究の主旨に何ら変更はなく、当初からの計画にしたがって、次年度以降、次のように研究を推進する。 1.「中国塩神廟分布図」・「中国塩神廟神格一覧」・「神像・祠廟建築写真」・「設置時期と設置事情」・「信仰組織と管理組織」・「祭祀活動」などを内容とする、中国塩神廟資料データベースを作成する。2.塩神信仰と他教信仰の習合、塩神廟の運営主体と政権当局の関係、塩神信仰の伝播と拡散、少数民族の塩神信仰と漢族支配との関係など、中国塩神信仰史研究上の諸問題を考察する。3.日本の各地に存在する塩竈神社を調査して「日本塩竈神社総覧」を作成し、それに基づき日・中塩神信仰の比較史的研究を行う。4.数回予定している中国塩神廟の現地での調査成果は、調査ごとにその都度「中国塩神廟調査報告」という報告でもって公表するとともに(本年度=初年度のそれはすでに公表)、「中国少数民族の塩神」・「中国海塩地区の塩神」・「日本の塩神と中国の塩神」と題して講演会などで公表する。 なお、初年度=本年度の研究活動を推進するうちに、地方民間の文化機関やあるいは個人のもとに、塩神廟の古写真・関連碑文の拓本・口述記録などが多数所蔵されている例をいくつか確認することができている。自貢市の塩業歴史博物館や中国塩文化研究センター、江蘇塩城市の海塩博物館などに依頼して、それらのいわば民間在地保存資料を鋭意調査することが、次年度以降に新たに必要となる。現地調査にあたっては必ずこの作業を組み入れ、貴重な資料の掘り起こしと収集に取り組みたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末3月に計画していた、中国四川省での現地調査が、新型コロナウイルス感染症の拡散・拡大のため中止となり、その渡航旅費を基金使用の基準にしたがい次年度にもちこすこととなったためである。まことに残念である。 中止した現地調査は、本研究の推進に不可欠なものであり、また当地研究者との事前連携も終了してあとは渡航をまつばかりとなっており、次年度のなるべく早い段階で実施する予定である。繰り越し分は、当然その渡航旅費にあてられる。一方、次年度には当初から天津市・江蘇省・浙江省海塩地区での現地調査を計画しており、しかるべき時期に実施する予定である。その渡航旅費は、当然次年度当初予算分から充当される。 本研究において現地調査を計画している各地の塩神廟は、その現地調査なくしては研究遂行が困難となるものばかりであり、一つとして欠くことができない。したがって、計画していた年度内の実施が何らかの理由で中止となった場合は、原則としてその渡航旅費を次年度に持ち越して、その調査を必ず実現したいと考えている。
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