研究課題/領域番号 |
19K01023
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
谷口 満 東北学院大学, 文学部, 教授 (10113672)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 海塩地区塩神廟 / 井塩地区塩神廟 / 池塩地区塩神廟 / 西南少数民族女性塩神 / 天津地区女性塩神 / 山東地区塩神信仰 / 塩神管仲 / 塩神孫子 |
研究実績の概要 |
中国各地に残存する塩神廟について、所在地・設置事情・神格・運営組織などの基本情報を収集するとともに、神像・祠廟などの写真を付して、中国塩神廟研究のデータベースを作成し、それらのデータを駆使して、塩神信仰と他信仰の習合、在地信仰へのかかわりに見られる行政と一般庶民の関係などを歴史的に考察することが本研究課題の主旨であるが、前年度までの成果を継承して、本年度はとくに天津地区・山東地区の海塩産出区に対象をあてて研究を実施した。その結果、天津地区の塩神は基本的に女性塩神であり、男性神と共祀される場合でもそれは夫婦神の形態をとること、また道教神と習合していく情況がみられること、山東地区には単独の純然たる塩神信仰は存在せず、龍王・管仲・孫子などの神格に塩神の神格が付与されて祭祀される場合が多かったことなど、貴重な事情を明らかにすることができた。 また、2年半にわたる考察の過程で塩神神格の地域差が明らかになり、女性塩神は西方の井塩地区と天津地区に見られ他地域には見られないこと、管仲を塩神として祭祀するのは山東を北限としていることなどが確認され、総じていうならば塩商の活動地や居住地には女性塩神を祭祀する例がほとんど存在しないこと、それはおそらく塩商や官員が塩神廟を創設する場合、多くは男性塩神を祭祀したためであろうという貴重な知見をえることができた。とともに、女性塩神の場合、本来は塩神でありながら、のちには地域住民全体の守護神としての性格を強くもつようになる例が多いことも確認された。 比較研究のため、日本の塩竃神社十数か所を調査してきているが、塩神と古事記・日本書紀系の諸神が共祀される例が多いこと、つまり日本の塩神信仰は原則として天孫系国家諸神祭祀系統に包含されていたことをあらためて確認したことも、一つの成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の方法は、採択以前のおよそ10年にわたる中国塩神廟現地調査の成果をうけて、その現地調査を発展的に継承することを主旨としているが、初年度こそ8月に現地調査を実施しえたものの、前年度・本年度は新型コロナウイルス感染症の蔓延によって中国渡航がすべて不可能となり、予定していた四川・雲南・天津・山東・江蘇・山西・福建・甘粛などでの現地調査を中止せざるをえなくなってしまった。神像・祠廟などの撮影、現地での文献資料・口承資料の収集ができなくなってしまったのであるから、中国塩神廟研究データベースの作成に大きな空白が生じてしまったことになる。この空白を埋めるべく、地方志・塩法志・地理志・民族志を精査するとともに、四川・雲南・上海の研究者に依頼して関連資料の収集につとめることになったけれども、残念ながら集積しえた資料は、所期の分量の5分の2ほどにすぎない。進捗状況を「おおむね順調に進展している」とは判定できないゆえんである。 ただ、地方志・塩法志・地理志・民族志の精査と現地研究者からの資料提供は予期せぬ成果をもたらしたことも確かである。天津地区の塩神信仰においては単独の塩神信仰として女性塩神祭祀が盛行していたのに対して、南隣の山東地区では単独の塩神祭祀が存在せず、塩神信仰は当初から他神信仰と習合する形で存在していたという明瞭な対比がみられることを発見したのはその一例であり、この知見が本研究の進展に少なからず寄与したことはまちがいない。進捗状況を最下位の「遅れている」には判定しなかったゆえんである。 以上を総合的に判断して、進捗状況を「やや遅れている」と判定した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度をもって3年間の研究期間が終了したわけであるが、新型コロナウイルス感染症の蔓延により所期の目的が達成できなかったことは明らかであり、認可された延長期間を最大限に活用して、所期の目的の達成をはかりたい。 1.「中国塩神廟分布図」・「中国塩神廟神格一覧」・「神像・祠廟写真」・「設置時期と設置事情」・「信仰組織と管理組織」・「祭祀活動」などを内容とする中国塩神廟研究データベースの作成を推進する。2.データベース資料を収集するために、四川・雲南・天津・山東・江蘇・山西・福建・甘粛などで現地調査を実施する。3.データベースに基づき、塩神信仰と他信仰の習合、運営主体と行政との関係、女性塩神と男性塩神の関係、少数民族の塩神信仰と漢族支配との関係など、中国塩神信仰史上の諸問題を考察する。4.引き続き日本各地の塩竃神社を調査し、「日本塩竃神社一覧」の作成を推進する。 なお、上記の現地調査は、当初の計画では4回の中国渡航でもって実施する予定であったが、残余の研究期間(延長期間)内に4回渡航することは、日中当局の渡航管理状況からして困難が予想されるため、4回分の調査内容を凝縮・集約して2回で実施したいと考えている。具体的には次の二つの行程でもって実施したい。a.四川省自貢市中国塩文化研究センターを拠点に、四川・雲南・山西・甘粛を巡回する調査。b.江蘇省塩城市海塩博物館を拠点に、江蘇・天津・山東・福建を巡回する調査。次年度にもちこした経費の約9割が、この2回の渡航旅費にあてられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度・本年度に予定していた四川・雲南・天津・山東・福建・山西・甘粛などでの塩神廟現地調査が、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、すべて中止となり、したがってその渡航旅費を基金使用の基準に従って次年度(認可された延長期間)にもちこさざるをえなくなったのが最大の理由である。中止している現地調査は、本研究の遂行に不可欠なものであり、しかも四川・雲南・上海などの現地研究者との事前連携をすでに終了して渡航をまつばかりとなっており、次年度のなるべく早い段階で実施する予定である。もちこした旅費はもちろんその際の渡航・滞在費に充当される。 なお、上記の現地調査は当初の計画では4回の渡航でもって実施する予定であったが、残余の研究期間(延長期間)内に4回渡航することは、日中当局の渡航管理状況からして困難が予想されるため、4回分の調査内容を凝縮・集約して2回でもって実施したいと考えている。4回の調査内容を2回で実施するのであるから、2回の場合のほうが1回1回の中国国内移動費・滞在費が当然増加することになり、結果として、4回分で想定していた旅費のほぼ全額が2回分の旅費にあてられることになると試算している。
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