中国各地に残存する塩神廟について、所在地・設置時期・設置事情・神格・運営組織・祭祀活動などの基本情報を収集するとともに、神像・祠廟などの写真を付して、中国塩神廟研究のデータベースを作成し、それらのデータを駆使して、塩神信仰と他神信仰との習合、在地信仰の様相に見られる行政と一般庶民社会の関係、塩神信仰をめぐる漢族と少数民族の相克などを歴史的に考察することが本研究課題の主旨であるが、昨年度までの作業を継承して、本年度はとくに四川省井塩地区と江蘇省海塩地区を対象として研究を実施した。その結果、塩神廟が統治拠点の機能を果たすなど、産塩地においては塩神信仰が政治活動の精神的紐帯となる場合が多かったこと、行政当局と塩商人が設立した塩神廟と一般庶民が自発的に設立した塩神廟では、たとえば前者では管仲、後者では塩神夫婦といったように、その祭祀される神格に相違する場合が多かったこと、塩神信仰が道教信仰・仏教信仰と習合していく事例は、もっぱら一般庶民設立の塩神廟に見られること、同一の産塩地において、競合する複数の塩商集団が、それぞれ個別に塩神廟を設立した事例が見られることなど、貴重な新知見を獲得することができた。 4年来問題にしてきている塩神神格の地域差については、井塩地区では塩源発見者を塩神とする事例が多いのに対して、海塩地区では塩業の保全者・復活者・管理者を塩神とする事例が多いという、新しい知見を追加することができた。 日中塩神信仰比較研究のため継続してきている日本各地塩竈神社の現地調査については、瀬戸内地区・東海地区・東京都において十数基の塩竈神社を調査して、その神格のすべてが塩土老翁神に一元化されていることを確認するとともに、明治以降の宗教政策のなかでその祭祀場所の多くが他神社や仏寺の境内に移転され、共祀されていったことを確認した。
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