研究課題/領域番号 |
19K01026
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
江川 ひかり 明治大学, 文学部, 専任教授 (70319490)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | オスマン演劇 / 祝祭 / 暦 / 大衆文化 / イスタンブル / オスマン帝国 / ラマダン(断食月) / カント(歌) |
研究実績の概要 |
2020年度は本科研の2年目にあたり、最終成果報告書となる日本語書籍に向けた個別研究を研究代表者江川ひかり、連携研究者永田雄三・奥美穂子が鋭意進めた。 第一に、オンライン内部研究会を2020年9月13日および2021年3月16日に開催し、上記三名が各自個別研究の進捗状況を発表した。 第二に、『中東・オリエント文化事典』が出版され、永田が「トルコの影絵芝居カラギョズ」「トルコにおける近代西洋演劇の受容」他1項目、江川が「ムフスィン・エルトゥールル」他1項目、奥が「オスマン王家主宰の祝祭」を執筆した。加えて江川は、「<史料紹介>オスマン近代演劇ポスターを読み解く(第2回)「ムフスィン・エルトゥールルのブルサ公演」(1913年6月)」を執筆し、近代オスマン演劇から現代トルコ演劇へと橋渡しをし、現代トルコ演劇・映画の礎を築いたムフスィン・エルトゥールルらが1913年に上演した演目と同公演の歴史的意義を明らかにした。 第三に、本科研の研究成果として江川・永田の共著によるトルコ語版研究書 Bir Kentin Toplumsal Tarihi Acisindan Osmanli'nin Son Doneminde Istanbul'da Tiyatro ve Cevresi(『都市社会史の視点からみたオスマン朝末期イスタンブルの演劇空間』)(Dergah出版, Istanbul)が校了となり、2021年度には出版できる見通しである。本書で、近代オスマン演劇との比較の視点から日本の伝統演劇に関してもトルコ人読者により具体的に理解してもらうために、歌舞伎の画像も掲載した。 第四に、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所所蔵オスマン演劇ポスターコレクションの解読成果を発信してきたデータベースを、当該大学サーバのシステム切り替えに対応して、継続して公開するためにシステム移行を完了した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ感染症の影響から2020年度は、奥美穂子のトルコ共和国への出張がかなわない状況となった。そのため、当初計画していたトルコ共和国における史料収集および現地調査は、次年度へ延期された。同様に、オスマン文学研究の第一人者であるハティジェ・アイヌル氏の日本への招聘も2020年度はかなわなかったため、江川とアイヌル氏が進める、世紀末イスタンブルにおけるジャーナリズム界のキーパースン、ターヒル・ベイの出版活動に関する共同研究は、オンラインでのみ継続することとなった。ただし、オンラインによる情報交換には限界があるため、2021年度にはアイヌル氏の招聘を実現したい。 連携研究者との間においてもオンラインによる情報交換は随時継続しているが、本研究メンバーが神奈川県および埼玉県在住で、都県をまたぐ行動がたびたび制約されたため、対面での議論が自由には実施できなかった。加えて、明治大学図書館、東洋文庫などにおける史料・文献の閲読も以前に比べて厳しい環境下に置かれることとなった。以上の理由により、2020年度の進捗状況はやや遅れているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナ感染状況が今後少しずつ収束していくにしたがって、上記の問題点は改善されていくことが期待される。2021年度は、本科研の研究成果の一部である、江川・永田共著トルコ語版オスマン演劇本Bir Kentin Toplumsal Tarihi Acisindan Osmanli'nin Son Doneminde Istanbul'da Tiyatro ve Cevresi(『都市社会史の視点からみたオスマン朝末期イスタンブルの演劇空間』)(Dergah出版, Istanbul)の出版が予定されている(2021年4月校了)。 本研究の最終成果報告書となる日本語版共著書『オスマン帝国イスタンブルにおける近代演劇と都市社会-帝国と大衆とを結ぶ装置』(仮題)の出版にむけて、研究メンバー三名が鋭意執筆を進めていく。そのために、オンラインのみならず対面での内部研究会および公開研究会を開催していく予定である。 本書は、近代演劇といういわゆる劇場で上演される演劇作品にとどまらず、国をあげての祝祭、さらにはコーヒーハウスや酒場などで講談師(メッダーフ)や歌手(カント歌手)によって披露される大衆芸能なども広い意味での「演劇文化」としてとらえる点が独創的で、このような問題視角から編まれた研究成果は本邦初の研究書となろう。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、連携研究者奥美穂子が計画していたトルコ共和国への史料収集・現地調査のための出張がかなわなかったことと、永田・江川共著によるトルコ語版演劇本の出版までには至らなかったこととが挙げられる。 次年度は、新型コロナ感染状況の好転によっては、奥美穂子によるトルコ共和国への出張も期待できる。また、永田・江川共著によるトルコ語版演劇本は、2021年4月に校了となったため、2021年度内に出版される見通しとなった。加えて、本研究成果の一部として世界に発信している東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所情報資源利用センターのウェブサイト「Welcome to Ottoman Theatrical Posters Exibition!(オスマン演劇ポスター展にようこそ)」のサーバーのシステム移行が完了したため、データの内容をさらにいっそう充実させていく所存である。
|