2023年度の研究会は、5月1日、7月15日および2024年2月12日の3回実施し、最終成果報告書に関する議論を深めた。 研究代表者江川ひかりは、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所所蔵オスマン演劇ポスターに依拠し、「オスマン近代演劇ポスターを読み解く(第4回)」で1881年にアルメニア人が主宰した3つのイスタンブル公演を紹介した。1881年がオスマン演劇史における重要な転機であることを認識し、1870年にギュッリュ・アゴプへ付与された演劇上演権に関する考察を進めた。 研究協力者奥美穂子(神奈川大学国際日本学部特任准教授)は、歴史学研究会大会で「近世イスタンブルにみるモノと祝祭:布地の役割を中心に」と題する報告をした。1582年にオスマン帝国で開催された王家主宰の祝祭では、宴席や大衆へのふるまいのための食材、官僚や招待客から王家への贈答品および返礼品など大量のモノが全国各地および海外からもたらされた。このような祝祭をささえたモノのなかでとくに布地は、たんなる布としての用途を越え、政治的・社会的名声の象徴として、時には特定集団のなかで一定の価値を有する「貨幣」の役割を果たしていたことを明らかにした。さらに19世紀同帝国における西洋式舞踏会の受容に関する考察を深めた。 研究協力者永田雄三(公益財団法人東洋文庫研究員)は、オスマン近代演劇の隆盛のなかで近代演劇と大衆娯楽文化との相互性を掘り起こすことを試みた。具体的には、大衆の人気を博した「カント(歌)と踊り」を披露するアルメニア人女優・歌手、大衆演劇を担ったトルコ人喜劇役者、都市社会の末端で生活する荷担ぎ、消防団などに着目しながら演劇空間としてのイスタンブルを考察した。とくにコメディアン、ナーシト・ベイの演劇史における重要性に着目し、ナーシトの芸の遺伝子が娘のアーディレに継承されたことに関する考察を深めた。
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