本研究の目的は、ジョチ・ウルス(ジョチ朝)後裔政権史料の分析により、それらからモンゴル帝国時代に関する歴史的知識を抽出すること、また、後代がいかにモンゴル帝国時代を認識していたか、チンギス家(ジョチ家)の権威がいかに保持され、あるいは変容したかを明らかにすることにある。 最終年度においてはタシュケントにおける写本調査を行い、ジョチ・ウルス後裔政権史料およびラシード・アッディーン『集史』のテュルク語訳の諸写本を精査した。 報告「『ダフタリ・チンギズ・ナーマ』 の4写本」(英語)を行い、報告内容を日本語論文として投稿。報告「『ムイーン史選』パリ写本のジャドワルと『総覧』」および論文「ムイーン史選のジャドワルとトプカプ宮殿博物館図書館B.411写本におけるジョチ」(ともにロシア語、掲載予定)においては、これまで注目されてこなかった『ムイーン史選』王朝表(ジャドワル)およびB.411写本のジョチ・ウルスに関する部分を分析した。論文「サライはどこに?」ではサライの位置をめぐる近年の議論を紹介・分析し、季節移動と首都圏、ハンたちの墓所の問題についても検討した(英語版も投稿中)。 論文「ジョチ・ウルス後裔政権史料は何を参照し、ジョチ・ウルス再編をいかに認識したのか?」は本科研の最終的な成果物である。本科研で実施した写本調査をふまえ、これら諸史料がラシード『集史』と同時にティムール朝史料『勝利の書』などを参照し、両者を融合したテュルク・モンゴル伝承を受け継いでいたこと、これら諸史料において「ジョチ家/ジョチ・ウルス」への帰属意識は保持され、15世紀以降のジョチ・ウルスがトカ・テムル家とシバン家諸王統によって再編されたと認識されていたことを明らかにした。その一部を報告「カーディル・アリー・ベクの史書のおけるトカ・テムル家、シバン家、クリム・ハン国」において発表した(ロシア語、掲載予定)。
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