本研究は東アジアの君主が自らの正統性を主張するために儀礼音楽を整備したという国家論の視点を用い、儀礼音楽の比較という見地からその歴史的背景を解明するものである。 以上の内容に沿って、研究の初年度である2019年度は、中国のなかでもとくに遼金の理解を深めるため、国家儀礼に関わる先行研究だけでなく『大金集礼』をはじめとする儀礼書の収集・読解を行った。とくに『大金集礼』についてよく整理された『中華礼蔵』シリーズの点校本を入手できたことは大きな成果であった。それと並行して朝鮮半島については高麗史の代表的著作、日本古代については国家儀礼に関わる最新の研究をおさえるようにつとめた。 また、論文「中国古代の音楽と政治」(『歴史と地理』第724号〈『世界史の研究』259〉、山川出版社、2019年5月)を発表し、これまでの研究を踏まえつつ、新たに則天武后期および韋后期の儀礼音楽について従来指摘されていなかった点を述べた。具体的にいうと、則天武后については中国王朝の儀礼音楽において通常記されるはずの歌曲名が書かれず演奏の順番のみが記されるという特徴がみられること、韋后についてはその政治的台頭が当時の唐の儀礼音楽に強く影響を及ぼしたことを新たに指摘した。 さらに、騎馬遊牧民がどのように中国雅楽を創り出すのかについて考え、北魏から隋の儀礼音楽を扱った論文を投稿した。当該論文はすでに掲載が決定し校了に及んでいる。これらはいずれも本研究課題に発展させることができる成果である。
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