本研究は東アジアの君主が自らの正統性を主張するために儀礼音楽を整備したという国家論の視点を用い、儀礼音楽の比較という見地からその歴史的背景を解明するものである。 以上の内容に沿って、研究の2年目である2020年度は、中国のなかでもとくに魏晋南北朝の理解を深めるため、周公が理想上の周の制度について記したとされる儒学の経典『周礼』の読解を行った。 それと並行して朝鮮半島の高麗・朝鮮王朝、日本の古代・中世における儀礼研究の最新の成果を収集し、中国史以外の分野の研究状況をおさえることにつとめた。 また、論文「華北における中国雅楽の成立―五~六世紀を中心に―」(『史学雑誌』第129編第4号、史学会、2020年4月)を発表し、これまでの研究を踏まえつつ、新たに北朝、隋の儀礼音楽について従来指摘されていなかった点を述べた。具体的にいうと、北朝については雅楽に西域由来の音楽が導入されたが、それをあたかも伝統的なものであるかのように見せるために『周礼』が利用されたこと、そうした『周礼』の利用には南朝の『周礼』研究が大きな影響を与えていたことを新たに指摘した。 さらに、魏晋南北朝の騎馬遊牧民と漢族の対立・融合がどのように中国雅楽を創り出すのかについて考え、その内容を寄稿依頼のあった論文に盛り込んだ。当該論文はすでに原稿を提出している。またその内容を発展させたものを報告依頼のあった学会で発表する予定である。これらはいずれも本研究課題に発展させることができる成果である。
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