研究課題/領域番号 |
19K01034
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
畑守 泰子 愛媛大学, アジア古代産業考古学研究センター, 研究員 (40202402)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 古代エジプト / 古王国 / ジェンダー / 女性の地位 / 墓壁画 |
研究実績の概要 |
本研究は、エジプト古王国時代の私人墓壁画の図像と銘文の分析を通じて、女性たちに期待された役割と社会的地位、およびそれらの変化について検討するとともに、古王国時代の家族観や家族制度の変遷を階層分化などの社会の変化との関わりの中で考察しようとするものである。 2020年度は、新型コロナウイルスの感染拡大により、予定していた海外での現地調査と国内での資料収集ができなかった。そのため、2019年度に実施した現地調査や国内調査などで得られた資料と、発掘報告書やインターネットで公開されている資料との照合や比較、分析を中心に研究を進めた。その成果の一部は、「エジプト古王国時代の墓壁画における母の図像」として資料学研究会(愛媛大学)発行の『資料学の方法を探る』第20号にて発表した。本論文はギザ墓地の王族の墓の壁画に登場する母親の図像の特徴や意味を考察したものである。また、墓壁画の女性と家族の図像について一般向けにまとめた講演の内容が、「壁画の中の女たち」として『ORIENTE』(古代オリエント博物館)第62号に掲載された。こちらにも昨年度の調査と研究成果の一部が取り入れられている。 2020年度は、これまでメソポタミア史やギリシア・ローマ史、考古学、建築史など他分野の研究者とともに対面で行ってきた古代ジェンダー史の研究会を、オンラインに切り替えて定期的に開催するようになり、そこで現地調査の成果の一部を報告する機会も得た。本研究会では、参加者の個別報告のほか、ジェンダー史関連の文献の詳細な読解を行っており、さまざまな分野の専門家との議論の中で、ジェンダー史の視角や方法論のほか、図像研究や考古学の新たな成果など、本研究にとって有益な情報を得る貴重な機会となっている。本研究会で得られた成果の一端は、『多文化社会研究』第8号(愛媛大学)にて発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、予定していた海外現地調査と国内での資料調査がまったくできなかったため、これまでの調査で収集した資料と、インターネット等で収集できた資料をもとに研究を進めた。ただし、これまでに収集できた資料が、地域や時期によってばらつきがあるため、対象とする地域や墓主の階層を当初の予定よりも限定し、分析を進めざるを得なかった。具体的には、ギザの上層・中流層の墓とサッカラの一部高官の墓を中心に検討を進めた。 また、研究協力者を招聘して行う予定だった中間報告の研究会を開催することができなかったため、2021年度に改めてオンライン等の方法も含めて開催を模索している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、引き続き墓壁画・墓碑資料の分析を進める。年度末までに現地調査が可能となれば、2019年度の調査で不十分であったサッカラ遺跡と、20年度に予定していたエジプト中部の遺跡を中心に墓壁画の調査を行いたいと考えている。2021年度は、特に第5,6王朝期のサッカラとギザの私人墓壁画の女性像に関して、資料の収集・整理と分析を重点的に進め、時代や地域、階層による家族観や女性観の相違と変化を析出していきたいと考えている。 研究成果の一部は、日本オリエント学会などの学会での口頭報告、もしくは学会誌などへの投稿を考えている。引き続きジェンダー史の研究会を定期的に開催し、古代エジプト研究におけるジェンダー史の可能性を探るとともに、本研究課題にとって有用な情報や視角を取り入れたい。また、2021年度には一部の研究協力者との中間研究会をオンラインの形で行い、さらに2022年度には研究協力者を招聘した研究成果報告の公開研究会を開催したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大のため、海外での現地調査のほか、関東や関西への資料調査がまったくできなかった。加えて、参加を予定していた研究会・学会が中止またはオンライン開催となったため、当初使用を予定していた旅費その他の経費の大半を使用できなかった。 2021年度は、年度末までに現地調査が可能となれば、前回の調査で不十分であったサッカラ遺跡と、20年度に予定していたエジプト中部の遺跡を中心に墓壁画の調査を行いたいと考えている。2021年度には一部の研究協力者と中間研究会をオンライン等の形で開催する予定であり、2022年度には研究協力者を招聘して研究成果報告の公開研究会を企画している。また2022年度に欧米で開催される国際学会(Workshop on Gender, Methodology and the Ancient Near Eastなど)への参加も予定している。
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