研究課題/領域番号 |
19K01035
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
平田 茂樹 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (90228784)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 手紙 / 啓 / 書 / 済王冤案 / 梅花詩案 / コミュニケーション / ネットワーク |
研究実績の概要 |
南宋の士大夫劉克荘の手紙を主たる史料としながら、劉克荘のネットワークとコミュニケーションについて分析を進めた。南宋士大夫は郷里を中心に血縁、地縁のネットワークを形成する一方、より上位の県、州、路においては政治、学問、思想、文化、趣味などを媒介として重層的複合的なネットワークを築いていく。さらに首都を中心とした世界においては政治的ネットワークの要素が高まる傾向が強い。劉克荘のネットワークとコミュニケーションについてもこの傾向が明確にみられることを検証するとともに、劉克荘が関わった二つの政治事件「済王冤案」と「梅花詩案」に関わる手紙について分析を行い、劉克荘が弾劾を受けつつ、厳しい処罰を免れることができたのは、鄭清之を始めとする中央政界のネットワークに加えて、福建を中心とする政治、文化、社会的なネットワークが彼の処罰軽減に影響を与えていたことを明らかにした。それと同時に劉克荘の二系統の手紙「書」と「啓」の分析を通して、「書」が基本的には「私的圏域」の手紙であったのに対し、「啓」は赴任、昇進、官職獲得、推薦などへの感謝、あるいは誕生日の祝い時のやりとりなど、官界あるいは士大夫社会を中心とする儀礼的、挨拶状的な手紙であり、後者を分析していくと、所謂政治的敵対者と思われる人たちとも頻繁な手紙のやり取りをしており、「啓」が当時の官僚世界のコミュニケーション上不可欠なものであったことが明確となってきた。また、これまで十分に検証されることのなかった二つの事件における劉克荘の精神世界が手紙の分析を通じて浮かび上がってきており、改めて手紙史料の有効性を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
手紙史料は膨大であり、その分析には多大な時間と労力を必要とするため、分析自体はまだ中途の段階である。ただ、想定していた南宋士大夫のネットワークとコミュニケーション構造について着々とその実像を明らかにすることができているとともに、その成果についても学会にて報告を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
劉克荘の手紙史料の分析を完成させるとともに、その手紙史料から窺える南宋士大夫のネットワークとコミュニケーションに関する実像について学会報告、研究雑誌への投稿を行う予定である。併せて、この成果とこれまでの幾つかの事例研究の成果と併せて、その成果を概括した研究成果を公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、国内出張、海外出張ができずにそのためかなりの未使用額が生じることとなった。本年度は最終年度に当たるため、研究成果をまとめるためにその未使用額を使う予定である。
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