研究課題/領域番号 |
19K01041
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
柳澤 明 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (50220182)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 媒介言語 / 翻訳 / コミュニケーション・ギャップ / 清 / 中国 / ロシア / 外交 |
研究実績の概要 |
本研究の第一段階の主要な目標である、1860年以前に清-ロシア間で取り交わされた条約・外交書簡のデータベース化については、フォーマットを作成し、データ入力を開始した。2019年度中に順治~雍正年間(1644~1735)部分の入力をおおむね完了し、引き続き乾隆年間以降について作業を進めている。条約・外交書簡の複数言語テキストの相互比較と、テキスト間の差異の原因に対する検討については、まず上記データベースへのデータ入力済の時期に関して、対象とする文書をいくつか選定し、予備的な対照を行ったが、精密な比較検討とそれに基づく考察は、データベースの完成を待ってあらためて行う予定である。清側における翻訳者の変遷についても、上記期間についてはある程度具体的な情報が得られたので、データベースに反映させ、それに基づく予備的な検討に取りかかっている。内モンゴル大学モンゴル学研究センターとの研究協力については、2019年12月に内モンゴル大学を訪問した際に、今後の具体的な進め方について打ち合わせを行った。 本研究の成果の一端は、2019年9月に吉林師範大学長春校区で開催された「吉林師範大学第二次国際満学学術研討会」での口頭発表「十八世紀黒龍江地区中俄貿易之変遷」、および2019年12月に内モンゴル師範大学科学技術史研究院において行った公開講演「有関清前期北辺與図的幾個問題」の中で公開した。これらは、いずれも本研究課題の成果発表を主題とするものではないが、内容の一部に、本研究を進める過程で得られた情報を盛り込んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
特に遅れが生じているのは、海外での資料調査にかかわる部分である。本研究課題の遂行に当たっては、条約・外交書簡に関して、既刊の資料集や、研究代表者がこれまでに収集した資料ではカバーできない情報を補うために、海外の文書館等での調査が必要である。2019年度には、ロシアと中国での調査を計画していたが、ロシアでの調査は、他の科研費による調査や国際学会への参加等、諸般の事情により日程の調整がつかず、実施できなかった。また、年度末には、北京の第一歴史档案館等での調査を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の影響で同館は休館となり、渡航自体も断念せざるを得なかった。代替として、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所に所蔵される「黒龍江将軍衙門档案」の調査を集中的に行うとともに、関連する国内外の先行研究(書籍・論文など)をより網羅的に収集することをめざした。しかし、一定の成果が得られたとはいえ、収集しえた情報にはおのずから限界があり、今後の海外での調査についても現時点では見通しが立たないため、データベースの完成とその後の研究のとりまとめが、当初予定よりも遅延するおそれが生じている。 また、内モンゴル大学モンゴル学研究センターとの研究協力に関しても、先方の状況を確認しながら、計画の見直しをはかる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、本研究を完成させるためには、海外の文書館等での資料収集が重要であり、2020年度以降は、情勢の推移を見ながら可能な限り行っていく予定である。しかし、実際のところ、どこまで実現できるかは不透明であるため、既刊の資料集や先行研究をより網羅的に収集するとともに、国内研究機関等での調査を通じて収集可能な情報をいま少し厳密に洗い出して、それらの成果をデータベースに取り込んでいくなど、次善の策を講ずる必要があるかもしれない。 また、2020年度中には、外交における翻訳の問題をテーマとするワークショップを開催する計画であった。このワークショップは実施する所存であるが、当初想定していた海外からの研究者招聘に制約がかかるおそれがあるため、国内からの参加者を中心にするなど、研究協力者とも相談しながら、企画を練り直すことを検討中である。内モンゴル大学モンゴル学研究センターとの研究協力に関しては、できるだけ早期に先方との電子メール等を通じた打合せを再開し、今後の進め方について協議する。 なお、上のワークショップとは別に、本年11月には、NIHU(人間文化研究機構)の「北東アジア地域研究」プロジェクトの島根県立大学拠点が主催するシンポジウムにおいて、本研究の進展状況について中間的な報告を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
最大の理由は、予定していたロシアと中国での資料調査が、いずれも実施できなかったことにある。その一部は研究代表者の調整能力不足に起因するが、一部は新型コロナウイルス感染症の影響というやむを得ない事情による。 これによって生じつつある研究計画の遅れを挽回するため、2020年度以降は可能な限り海外での資料調査を実施する所存であり、次年度使用として請求した助成金の大部分はそこに充当していく予定である。ただし、現状では海外渡航や海外研究施設の利用になお厳しい制約があるため、状況によっては、国内での資料収集に重心を移し、また2020年度に開催予定のワークショップにより多くの費用を回すことを考慮する。
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