研究課題/領域番号 |
19K01041
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
柳澤 明 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (50220182)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 翻訳 / コミュニケーション・ギャップ / 清 / 中国 / ロシア / 外交 |
研究実績の概要 |
本研究の第一段階の目標である清-ロシア間の条約・外交書簡のデータベース化は、予定より遅れているが、乾隆年間(1736~95)の部分を引き続き入力中である。 第二段階の目標として設定した、条約・外交書簡の複数言語テキストの比較検討と、そこに見られるコミュニケーション・ギャップの背景・理由の解明は、本来、上記データベースへのデータ入力の完成を待って本格的に着手する予定であった。しかし、データベースの進捗が遅れているため、完成を待たずに、17世紀末~19世紀前半の文書中から適当な事例をいくつか抽出し、テキストの精密な比較と、その背景として考えられる要素の検討に取り組んでいる。その成果の一端は、人間文化研究機構(NIHU)島根県立大学拠点のプロジェクト「北東アジアにおける近代的空間の形成とその影響」の総括シンポジウム(2020年11月7日、オンライン開催)で口頭発表した。さらに、その内容をもとに「露清外交におけるコミュニケーション=ギャップの実相─18世紀初頭と19世紀中葉の二つの事例を通じて─」として論文化した。この論文は、上記プロジェクトの成果の一部として、2021年度中には中国語訳・韓国語訳とともに公刊される予定である。 なお、清側・ロシア側双方において外交書簡の翻訳・対面交渉の通訳にあたった人員の変遷については、データベースへの入力と並行して情報を集約し、2020年度の大学院文学研究科における講義(東洋史学特論11)の中で詳述した。そこには学術的に意味のある一定の知見が含まれていると考えるので、目下論文化を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は、中国・ロシア・モンゴル等に所蔵される未公刊の外交文書を収集・分析することを前提に計画が組み立てられていた。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年度全体を通じて、海外の文書館等で資料調査を行うことはまったく不可能であった。また、関連資料を所蔵する国内の図書館等も、入館・閲覧の規制が厳しく、やはり有効な調査は実施できなかった。このため、研究計画全般に遅延が生じている。 代替として、1750~80年代のモンゴル国立中央文書館所蔵文書(対ロシア外交に関する内容を含む)を収録する『清代欽差駐庫倫弁事大臣衙門档案档冊彙編』(全20巻)を購入し、本研究に関連する文書を抽出して検討に取りかかっている。ある程度の成果は得られる見込みであるが、本研究の完成に必要とされる情報の全体をカバーするには到底足りない状況である。 なお、国内外の関連研究者を招いて実施する予定であったワークショップもしくは講演会も、いまのところ実現していない。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度までに行うはずであった海外での資料調査は、今後の推移を見ながら、2021年度中にできる限り実施したいと考えているが、状況は予断を許さず、実現できない恐れもある。一方、国内での資料調査に関しては、極力実施したいと思っている。 もしも資料収集が不十分なまま、2021年度中に研究を完成させなければならない見込みとなれば、当初計画を軌道修正せざるを得ないと思われる。具体的には、17世紀後から1860年までの条約・外交書簡を網羅的に収録する予定であったデータベースは、19世紀のデータが特に不足しているため、範囲を縮小して、おおむね18世紀末までとし、収録する外交書簡の範囲も、たとえば中央政府間の書簡のみに限定する等の調整を行う。一方で、多言語テキストの比較を通じたコミュニケーション・ギャップの背景・理由の検討等については、たとえ限定的なものにとどまるとしても、可能な限り19世紀に関する知見も盛り込みたいと考えている。 なお、2020年度に実施予定であったワークショップ(または講演会)は、2021年度実施予定のワークショップと合体させ、状況によってはオンラインで開催したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」の項に記したとおり、複数回にわたって行う予定であった海外での資料調査と、海外から研究者を招聘することを想定していたワークショップ(または講演会)が実施できなかったことが主な理由である。 2021年度は、海外・国内での資料調査を状況を見てできるだけ実施するとともに、ワークショップ開催を実現する。また、関連情報が収められている資料集・研究書等をできるだけ幅広く探して購入するとともに、データベースへの入力や成果公開等に関しては、作業効率の向上をはかるため、必要な機器(PC等)の追加購入、謝金による作業委託、業者への外注等を検討する。
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