研究課題/領域番号 |
19K01041
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
柳澤 明 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (50220182)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 清 / ロシア / 外交 / 翻訳 / コミュニケーション・ギャップ |
研究実績の概要 |
本研究の当初の目標は、以下の通りであった。①17~19世紀(おおむね1860年まで)に清朝-ロシア間で取り交わされた外交文書の網羅的なリストを作成し、データベース化すること;②外交文書の複数言語によるテキストを比較し、翻訳に起因する差異の実態を検証すること;③複数言語間に有意な差異が存在する場合、その理由・背景を考察し、それを手がかりとして、両国間のコミュニケーション・ギャップの実相とその通時的変化を明らかにすること。 以上のうち、①に関しては、両国の中央政府が関わった文書(発信者・受信者の一方または両方が中央政府であるもの)について、2022年度中にデータ入力を一通り終了したが、なお情報の不備が残っている。また、地方当局間の文書についても継続的にデータ入力を進めている。 ②に関しては、2021年度末に「露清外交におけるコミュニケーション=ギャップの実相──18世紀初頭と19世紀中葉の二つの事例を通じて」として発表したが、2023年2月に島根県立大学で開催された『論集 東アジアにおける近代的空間』(上記拙稿を収載)の書評会において、近代中国外交史の専門家である岡本隆司氏(京都府立大学)他から貴重なコメントを得た。 また、2022年12月には、台湾の中央研究院等で開催された「内亜与海洋:明清中央档案、地方文書及域外史料」国際研討会に参加し、「清朝対中俄貿易的管理体制及其変遷:18世紀後半至19世紀初」と題して研究発表を行った。主題は清朝の対ロシア貿易体制の変遷であるが、本研究を通じて得られた翻訳とコミュニケーション・ギャップに関する知見を踏まえた内容であり、上記の目標③と関係の深い成果の一端といえる。 全体として、当初計画では、段階を追って①-②-③の作業を順次進めて行く予定であったが、主として海外資料調査の遅れから、実際には①~③を並行して進める形となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020~2021年度に海外資料調査ができなかったため、2022年度にはぜひとも実施したいと考えていたが、中国・ロシアへの渡航は引き続き困難であった。そこで、同年8月ないし9月にモンゴルで調査を行うことを計画したが、当時は現地でコロナウイルス感染症がなお流行しており、日本帰国時の規制も厳格であったことから、断念せざるを得なかった。結果として、①のデータベース構築作業は、中央政府関係文書に関するデータ入力を一通り終えたものの、特に19世紀部分については公刊された資料集等によらざるを得ず、情報量が十分ではない。地方当局間の文書に関しても、鋭意入力を進めているが、欠落部分がかなり残っている。海外調査の代替として、公刊されている関連資料集の購入やデジタルアーカイブを通じてのデータ収集等を行ったが、得られた情報には限界がある。 ②の作業は、前項に述べた書評会において専門研究者からコメントを得て、複数言語テキストをより精密に比較検討する上での課題が明らかとなったので、今後の研究内容に反映させたい。 ③に関しては、清-ロシア両国間における外交文書翻訳とコミュニケーション・ギャップの実態と変遷を総合的に考察する論考の執筆に着手した。これは、本研究全体の総括としての意味をもつが、データベースが未完成なこともあり、さらに情報を補い、検討を加える必要がある。また、前項で言及したとおり、2022年12月に台湾で③に関連する研究発表を行ったが、その内容を文章化する作業も課題として残っている。 当初計画において2021年度までに予定していた国際ワークショップは、研究計画全体の進捗が遅れたこと、コロナ情勢がなお安定しなかったことから、2022年度も実現できなかった。上記2022年12月の研究発表は、ある程度まで当該ワークショップの代替としての意味をもつが、必ずしも十分とはいえない。
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今後の研究の推進方策 |
研究目標①~③のうち、特に①・③の進捗が遅れている最大の理由は、海外資料調査が実現していないことにある。現時点において、ロシアでの調査は引き続き見込みが立たず、中国に関しても、なお種々の制約があり、実施できるかどうか微妙である。そこで、前年度に見送りとしたモンゴルでの調査をぜひ実現させたい。同国の国立中央文書館)には、清-ロシア間の往復文書のうち、特にフレー(庫倫)弁事大臣衙門が関与したもののテキストが相当数保管されているので、これらを収集・分析すれば、①のデータベースに情報をかなり補填できると思われる。それを踏まえて、少なくとも中央政府関連の文書に関しては、データベースを完成させ、公開したい。また、中国・ロシアについても、今後状況が変化した場合は、調査実施を検討する。さらに、紙媒体またはオンラインで購入・アクセス可能な関連資料についても、引き続きできるだけ広範囲に収集していきたい。 ②に関しては、これまでに得られた知見と課題を踏まえて、2021年度末に発表した論文に続き、外交文書の複数言語テキストを比較対照する2本目の論文を執筆したいと考えているが、①・③を優先するため、本研究の期間終了後になる可能性がある。 ③に関しては、前項に記した総括的な論考の執筆を進める。ただし、雑誌論文としてはやや分量が大きくなる見込みなので、どのような媒体を通じて公開するかを検討中である。また、③に関連して2022年12月に台湾で発表した内容についても、目下論文を執筆中であり、今年度前半には台湾の査読誌に中国語で投稿する予定である。加えて、2022年度までに実現できていない国際ワークショップは、オンラインもしくは対面/オンラインのハイブリッド方式により、今年度下半期に実施すべく、できるだけ早期に具体的な準備(登壇者への打診、日程調整など)に着手したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
【現在までの進捗状況】に記載した通り、主としてコロナ禍の影響により、2020~2022年度に海外での資料調査が実施できず、研究計画の進捗が遅れたため、繰越申請を行って認められた。それを受けて、【今後の研究の推進方策】に記したように、可能な範囲において海外調査を実施するとともに、引き続き入手可能な関連資料集等の購入、オンライン資料へのアクセスを進めたいい。また、国際ワークショップの開催も予定するが、開催形態はおそらくオンラインまたは対面/オンライン併用となるため、費用は当初見込みよりやや抑えられると予想する。
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