本研究の当初の目標は、次の通りであった。①17~19世紀(おおむね1860年まで)に清朝-ロシア間で取り交わされた外交書簡の網羅的なデータベースを構築すること;②外交書簡の複数言語によるテキストを比較し、翻訳に起因する差異の有無を検証すること;③複数言語間に有意な差異が存在する場合、その理由・背景を考察し、両国間のコミュニケーション・ギャップの実相と通時的変化を明らかにすること。 以上のうち、①に関しては、2022年度末までに国内で入手しうる限りの情報はほぼ入力し終えたが、海外での文書史料調査が実施できなかったことから、完成には至っていなかった。2023年度においても、中国およびロシアにおける調査にはなお困難があり、9月にモンゴルで短期間の調査を実施して情報を補ったものの、なお欠落が残る状態であった。ところが、2023年後半に『中俄関係歴史档案文件集』全19巻(商務印書館)が公刊された。この資料集には膨大な数の両国間外交書簡の漢語訳が収録されており、情報の欠落を補填したり、部分的に修正することが可能になったが、一方で、そのことはデータベースの完成にさらなる遅延をもたらし、2023年度末においても、残念ながら公開できる段階には至っていない。 ②および③に関する研究成果の取りまとめと公開に向けては、2021年度末に公にした「露清外交におけるコミュニケーション・ギャップの実相」(『北東アジアにおける近代的空間』所収)を踏まえて、さらに考察を進めていったが、①と同様の理由により遅延を余儀なくされた。その結果、2023年度においても、中国で開催された国際学会で部分的な成果を発表したものの、十分な取りまとめを行うには至っていない。ただし、2024年3月に開催された早稲田大学中央ユーラシア歴史文化研究所のワークショップにおいて、その時点までに得られた知見を一通りまとめて発表した。
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